43. こころを掴む

まえがき

 川西達郎と花子は和田篤二郎の作った作品を評価します。

ストーリー

黒皿

 「そうだ、これを見て下さい。」

 和丹窯の和田篤二郎が足元に置いていた紙袋から新聞紙に包まれた物を取り出してセンターテーブルに置き、包みをほどこうとしました。

 「いや、そういうのは、後にしてくれまへんか。」と、スツールに座って様子を見ていた藤原台支店の木津根きつね支店長が、篤二郎の手を右手を伸ばして止めました。

 「何で俺の進行に任せないで、勝手にどんどん話を脱線させて行くんや。」と、心の中で毒づいて篤二郎を連れてきた西川しんをちらっと見ました。西川も話を早くまとめたいはずと勝手に思ったのです。

 すると、西川はそれを見咎めるように言いました。

 「いいじゃないですか。川西様もご覧になりたいでしょう。」と、川西達郎と花子さんに同意を求めたのです。

 「篤二郎、見せてくれんか。」と、達郎は包みの中身を見たくて仕方がありません。

 木津根きつね支店長は、「ちっ」と心で舌打ちしながら、伸ばした右手を渋々引っ込めました。

 篤二郎が新聞紙の包みを広げると、20センチの角皿が出てきました。

 「お見せしようと思って、僕の最近の作品をいくつか持ってきました。」

 「見せてもらうな。」と、達郎は両手で角皿を顔の高さまで持ち上げて、じっくりと見定めます。

 「灰釉かいゆうか。素朴やが、このざらっとした質感が難しい。よく火を調節したな。」と、達郎は目を細めました。

 「お父ちゃん、私にも見せてえな。」と、花子さんも手に取ります。

 窯元で生まれ育った花子さんは、達郎よりも長く陶器を見続けていますので、有馬焼の陶器の出来も的確に判断しています。

 次に篤二郎が取り出したのは、7寸(約21センチ)の漆黒の丸皿です。

 「黒釉こくゆうか。見事な色合いや。しのぎも均等に丁寧につけとる。鎬文しのぎもんもきれいに出来とる。この皿は漆黒にしてあるが、この鎬文しのぎもんを赤土で浮かばせてもええやろな。」と、達郎は満足そうです。

 鎬文は両側にしのぎと呼ばれる谷の部分をへらなどで付けて、稜線りょうせんになったところをいいます。尾根のような線模様が浮かび上がるのです。

 花子さんも表も裏も良く見て、「きれいやな。」とポツり。

 「これで最後です。」と、篤二郎が取り出したのは、真っ白な湯飲みでした。

 「おっ、これは瀬戸物かと思ったぞ。白磁はくじか。」と、達郎はもううれしくて仕方がない様子です。

 「そうです。白磁土はくじどを手に入れて造ってみました。」

 「あんた、しっかり修行して来たんやね。」と、花子さんも合格点を出しました。

 「西川さん、あんたが篤二郎を連れて来てくれたんですか。ありがとう。」と、達郎は西川に頭を下げました。

 「いえ、失礼ですが、私は有馬焼窯元清和の誕生の経緯と、三代目が展示会に出品された陶器に丹波立杭焼で勉強されたことの解説が付いていましたので、丹波立杭焼の窯元の出身で後継ぎになる人材がいないかと探したところ、彼が見つかったのです。」と、西川が答えました。

 「ちょうど、彼の兄が結婚して和丹窯を継いだのです。彼はこれでも昼は窯元で修行して、夜間大学で経営学を学んで、自分の力を試す場所が欲しかったのです。ですから、彼が有馬焼で力を発揮したいというのを、六代目も認めたのです。」

 「そうか、中卒のわしの後を大学卒が継いでくれるんか。しかし、わしも六代目に負けんと厳しくするぞ。ええか。」と、達郎は半ば涙目で篤二郎に言いました。

 「よろしくお願いします。」と、篤二郎はまた立ち上がって、深々と頭を下げました。

 「お父ちゃん、良かったね。」と、花子さんもハンカチで鼻水が出るのを押さえました。

 「西川さん、では前向きに話合いましょう。」と、達郎は言いました。

解説

取引相場のない株式の評価

 自社株の評価については、「31. こころ傾く」の解説欄で一般的な評価方法について述べました。

 ここでは、取引相場のない株式の株価対策についてお話しましょう。

 取引相場のない株式の評価は、一般的には、純資産価額方式>類似業種比準方式>配当還元方式 になりますが、評価方式は株式の取得者や会社の大きさによって変わります。

 株価対策で株式の評価を下げることは、後継者へ引き継ぐ際の節税につなげることができます。

一般的な自社株評価額の引下げ方法

1.会社規模区分の変更(従業員を増やすなど)

2.配当の引下げ(無配当、特別配当、記念配当)

3.役員退職金の支給(法人契約の生命保険)

4.業態転換(主たる事業を株価の低い事業にする)

5.不動産取得(取得後3年を経過したもの)

などがあります。

 今回、川西達郎と花子さんは個人所有の株式全譲渡を検討しています。上記の株価引下げ対策を取ることは、譲渡する株の価値を下げることですから、当然対価としての現金の額が下がってしまいます。

 個人が株式譲渡する場合は、譲渡所得が分離課税されます。税率は 20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税が所得税15%に対して2.1%付加)になります。

 一方、達郎が会社で加入していた長期平準定期保険を中途解約し、自分の退職金にした場合、退職所得は収入金額から退職所得控除額を控除した金額に2分の1を掛けた金額となり、それに課税されますので、かなり退職所得税は少なくなります。

 退職金無しで株価を下げずに株式売却益を大きくするか、退職金を受け取って株価を下げて株式売却益を小さくするかは、株式譲渡所得課税金額と退職所得課税金額を計算して、どちらが節税効果が高いか判断することになるのです。