16. 宝塚へ向かう
まえがき
坂元八造と金田俊哉は兵庫県の山林調査に向かいます。
ストーリー

ファミリーオフィス銀座の新入社員である坂元八造と金田俊哉の二人は、JR東京駅からのぞみの普通車指定席に乗車して西に向かっています。昨日、伊勢信一郎所長から関西出張と不動産調査の実地研修を指示されたのです。
「坂元さん、依頼されていたお孫様の留学先探しは決まったんですか。」と金田俊哉が聞きます。彼は3人掛けシートの真ん中の席に深々と座り、右足を左足の上に組んだ状態でスマートフォンをいじっています。
「ああ、将来アイビーリーグの大学に入れたいとの希望だったので、アメリカのボーディング・スクールに留学することになった。」と、窓側の席で景色を眺めていた坂元八造が顔を金田俊哉に向けて答えます。前の座席の背中に付いたテーブルにはペットボトルの冷たい緑茶が立っています。
「金田くんは贈与の相談だったっけ。」
「はい、一般的な話として教育資金贈与で1,500万円まで非課税だし、暦年贈与で年間110万円までなら非課税に贈与できるということを税制改正も含めて説明しました。」と金田俊哉はスマートフォンを見続けたまま返事をします。
坂元八造はどうやらこの若者には年上を敬う心が欠けているなと感じましたが、教師時代に夜の繁華街で居場所を探しまくった不良学生達に比べたら全然ましだなと思いました。
二人は最初に同じ富裕層の顧客の後継者の教育課題と相続対策の課題を担当したのです。
「窓側の席を取って悪かったな。」と坂元八造が金田俊哉に向かって言いました。
「坂元さん知らないんですか。3人掛けの真ん中の席が一番広いんですよ。」と金田俊哉は笑って両手を広げて席の幅を示しました。
二人が東京駅で買った弁当を食べているうちに、2時間半でのぞみはJR新大阪駅に到着しました。ここから福知山線に乗り換えるのが近道ですが、伊勢所長の指示で普通電車で1駅のJR大阪駅まで出て、阪急線に乗り換えすることにします。
「うわ、すごいな。こんなに変わったんだ。未来都市みたいだ。」とJR大阪駅のカーブを描いた片流れの巨大な天井を見上げて坂元八造は思わず大声を上げました。
「坂元さん、田舎者みたいですよ。」と、金田俊哉が周りを見渡し誰にも聞かれていなかったか気にしています。彼は外資系銀行マン時代は月に何度も行き来していたのです。
「でもすごいぞ。ああ、北側は何もなかったのにすごいビルばかりだ。」と、坂元八造はまたも感動しています。JR大阪駅の北側は再開発でグランフロント大阪とヨドバシカメラの旗艦店が建っていたのです。
金田俊哉が誘導して二人は雑踏の中を徒歩5分で阪急梅田駅に来ました。1階に紀伊國屋書店梅田店が入り、日に50万人が通行するというイベント広場には東芝製の縦2.59m✕横11.94mのフルカラーLEDモニタービジョン「BIGMAN」があり、その大画面のモニター前は渋谷のハチ公前の様な待ち合わせ場所になっていて大勢の人がいます。
二人はモニター横にあるエスカレーターで2階に上がり、阪急梅田駅の改札口を通ります。梅田駅は始発駅で、神戸方面、宝塚方面、京都方面へ各ホームから阪急マルーンと言われるチョコレート色に近い色で統一された阪急電車が発車しています。二人は宝塚線の「急行宝塚行き」の電車に乗車しました。始発駅で座れたのは助かりました。
坂元八造はふかふかのシートを手で擦りながら上品そうな電車だなと感じていました。きっと住民層が良い地域を走っているんだなと思いました。
「ええと、阪急宝塚駅前のロータリーで不動産業者の方と合流したら良かったんだな。伊勢所長はその業者の方の名前を何と言ったっけ。」と、シートに座って社内に吊り下げられた関西の広告を珍しそうに見上げながら坂元八造が聞きます。
「深田さんですよ。その人が指導するって言われてます。」
「先ずは、目的地の土地価格の相場を確認して、それから新規の開発計画があるか調べるんですよ。」と、金田俊哉はさすがに伊勢信一郎所長の指示を正確に理解しています。
阪急電車は遅れもなく38分で終点の宝塚駅のホームに滑り込みました。これからの実地研修に二人は気が引き締まる思いです。
解説
アイビーリーグ
VYリーグは、アメリカ東海岸のハーバード、ペンシルバニア、プリンストン、イェール、コロンビア、コーネル、ダートマス、ブラウン大学の8校の総称です。卒業生はアメリカの各界の主要な地位を占めています。どれも私立大学です。
またアイビーリーグには入っていませんが、MITと言われるマサチューセッツ工科大学はノーベル賞学者をハーバードよりも多く輩出している全米屈指の私立大学です。これらは皆私立大学ですので、学費と寮費で年間5~6万ドル必要です。
公立大学では、西海岸の州立大学であるUCLAことカリフォルニア大学ロサンゼルス校が名門校で有名ですね。こちらは州立大学なのですが学費は私立大学並みです。これらの学校の費用以外にも、休暇毎の航空費や教科書代で5千~1万ドルかかります。
但し、日本に比べ給付型奨学金が圧倒的に多く、またNEED BLIND ADMISSION制度に加入しているハーバード、イェール、プリンストン、コーネル、ダートマス、MITでは世帯収入により学費の大きな減額があります(ハーバードなら年収8万5千ドル未満なら学費無料)し、合格できるほど優秀ならば何らかの奨学金の給付が受けられると考えられます。なお、外国人入学生に対して適用されるかどうかは確認が必要です。
これらの大学に入学するためには、アメリカの高校までに在学して優秀な成績を残すことが有利ですから、ボーディング・スクールへ入学希望者が世界中の富裕層から集まるわけです。
なお、日本学生支援機構(JASSO)が海外留学のための案内サイト「海外留学情報サイト」を公開しています。お子様といっしょにご検討いただければ、留学のための非常にご参考になりますよ。もちろん、奨学金についても述べられています。
教育資金の一括贈与
30歳未満の方が父母、祖父母などの直系尊属から一括して教育資金の贈与を受ける場合は教育資金1,500万円までの贈与税が非課税となる制度があります。書面により贈与を受けた教育資金は銀行等に預入れする等の一定の方式をとり、金融機関等の営業所等に教育資金非課税申告書の提出をすることで非課税が適用されます。
ただし、前年分の受贈者の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える場合には、この非課税制度の適用を受けることができない等の条件があります。
なお、この制度は令和8年3月31日までの贈与が対象となります。
相続時精算課税制度の改正
相続税対策として暦年課税か相続時精算課税かの選択適用となっていますが、令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)でどちらも改正になりました。
暦年課税
暦年課税は生前贈与で1年間の贈与により取得した財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除した残額に税率を適用して贈与税額を算出します。改正点はこれまで相続開始前3年以内の贈与は相続財産に含まれていましたが、これを相続開始前7年以内の贈与から相続財産に含まれることになりました。(経過措置あり)
ただし、延長された4年間の贈与により取得した財産については、総額100万円まで加算されません。相続開始まで毎年110万円の贈与を受けていた場合、440万−100万円=340万円が改正により相続財産に含まれ相続税の対象となります。
暦年課税は改正により納税者の負担増になったと言えます。

相続時精算課税制度
相続時精算課税を選択した受贈者は、特定贈与者から取得した贈与財産の贈与時の価額をその特定贈与者の相続財産に加算します。改正点は、特定贈与者ごとに、1年間に贈与により取得した財産の合計額から基礎控除額110万円を控除できるようになったことです。改正により納税者の負担が軽減されます。
また、この制度には2,500万円の特別控除があります。

なお、金田俊哉が坂本八造に「一般的な話」と表現したのは、個別具体的な税務相談は有償であれ無償であれ税理士法に抵触するからです。つまり税理士しかしてはいけないからです。








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