17. 不動産業者
まえがき
坂元八造と金田俊哉は宝塚で不動産業者と会います。
ストーリー

阪急宝塚駅に到着したホームでは、車両発車時の「すみれの花咲く頃」のメロディーが流れていました。とたんに宝塚歌劇の風が吹いたようです。
「うーん、歩いている若い女性がみなタカラジェンヌに見えてくるなあ。」と坂元八造がうれしそうに言います。確かに女学生は髪を後ろでお団子にして、とても姿勢よく歩いているように思えます。宝塚音楽学校の生徒でしょうか。
「でも駅は広くなってきれいになった。以前に来た時はこんな立派じゃなかったけどな。」
坂元八造の奥さん一美さんは京都出身で、帰省した際に宝塚歌劇を観に来たことがあったのでした。
「坂元さん、こっちです。こっち。」と金田俊哉が手招きしています。
阪急宝塚駅とJR宝塚駅は高架の歩道橋でつながっており、その間にバスロータリーがあるのです。そこで相手と待ち合わせの予定でした。二人は2階の改札口を出て階段を降りロータリーに出ました。すぐ横のタクシー乗場に停車しているのも「阪急」と行灯とドアに書かれた真っ黒のタクシーです。
「あれですかね。」と金田俊哉が指差した先に、大きなベンツのテールが見えます。少し濃い目のイリジウムシルバーの SクラスAMGでしょうか。セダンの様ですが 4本のクワッドエキゾーストパイプがいかつさをかもし出しています。
「俺、あんなの恐くて乗れないよお。」と、めったにタクシーも乗らない坂元八造は言いました。
「でも、不動産業者だったらあれぐらい乗っててもおかしくないでしょ。」と、派手なものが好きな金田俊哉がAMGに乗れると喜んでいます。
すると、「お前さんたち、伊勢さんとこのもん(者)か。」と急に後ろからしわがれた呼び声がしました。二人が振り返ると、こちらもごま塩シルバーの髪の小柄なじいさん、失礼老人が、よれよれの灰色のジャケットを着て立っていました。
「はよこっち来てや。ここは止めたらあかんとこやからな。」と言う老人の横には、これまた老人の車、いやクリーム色のビンテージカーが止まっています。
「えっ!」と、揃えたように二人が絶句。
「あっ、すごい。これはべレットちゃんじゃないですか。」と、坂元八造は信じられないという顔でそのビンテージカーに駆け寄ります。
「何ccですか。」と坂元八造は目をキラメカせて問います。
「最初の1500じゃ。」
いすゞべレットは昭和38年に販売開始した、小型で角のとれた外観をしており卵をイメージしたデザインで人気があり、日本発のGTモデルもありました。
「ちゃん?こんなのが現役で走っているなんて。」と、興奮する坂元八造を見ても、金田俊哉はこんな車かいと信じられない様子です。
「新車で買うて、ずうっと一緒じゃ。」と胸を張る老人。
「あの、すみません。ふ、深田さんじゃないですよね。」と、「じゃない」と言ってほしいと願って金田俊哉がおそるおそる聞きます。
「もちろんわしじゃ。早よ乗らんか。」と、二人に促します。
坂元八造は我先にと助手席に乗り込み、金田俊哉はうそだろという顔で渋々と助手席の後ろのシートに乗りました。膝がつかえて窮屈そうです。
「深田さん、よろしくお願いします。」と、坂元八造は改めて頭を下げます。
「これからどこへ。」
「先ずは、宝塚ホテルへ行こか。腹減ったしな。」と深田金司はアクセルを踏み、ベレットは白い排気ガスを盛大に出し重そうに走りだしました。
阪急宝塚駅から宝塚花のみちを通って徒歩4分、宝塚歌劇大劇場の西隣に薄クリーム色の外壁をした洋館風な外観の宝塚ホテルがあります。大劇場と良く合っています。創業は1926年(大正15年)ですが現在の建物は2020年に移設開業されました。客室総数200室で、館内は旧館のような大正時代の雰囲気漂う静かな空間に赤い絨毯というわけではありませんが、豪華な素晴らしいホテルです。その2階のビュッフェで3人は昼食をとっています。
「俺、まだ新幹線で食べた弁当が胃に残っているよ。」とあまり箸の進まない坂元八造を尻目に、若い金田俊哉はたっぷり皿に盛ったおいしそうな料理をきれいに平らげ、お替りに行こうとしています。
「まず、これを見てんか。」と、老人とは思えぬ食欲を見せた深田金司が、テーブルの上に紙のたばを乗せました。
「これは神戸市北区有馬町の周辺の土地価格や。レインズに載っとる売り出し中の土地価格と成約済みの価格の両方やで。」
解説
土地価格
不動産の価格には公的な評価としての価格と市場で取引されている実勢価格とがあります。特に土地は、目的に応じて5つの価格があると言われます。
1.公示価格
国土交通省土地鑑定委員会が適正な地価の形成に寄与するために毎年1月1日時点の標準地における正常な価格を3月末に発表しています。令和6年地価公示では、26,000地点で実施されています。価格は一般の土地取引価格の「指標」であり、公共事業用地取得のための規準ともなります。根拠は地価公示法第2条第1項です。
2.基準地標準価格
都道府県知事が選択する毎年7月1日時点の基準値の標準価格を9月末に発表しています。国土利用計画法による土地取引の適正かつ円滑な実施での一般の土地取引の指標となることは公示価格と同じで、公示価格の100%です。根拠は国土利用計画法施行令第9条第1項です。
3.相続税路線価
国税庁が毎年1月1日時点の主要道路に面した1㎡当りの評価額を7月上旬に発表しています。相続税や贈与税の算定基準となり、公示価格の80%程度になります。根拠は相続税法第22条です。
4.固定資産税評価額
市町村(東京23区は東京都)が1月1日時点の固定資産税等課税のための評価額を3月末に発表しています。3年に1度評価替えが行われます。公示価格の70%程度になります。根拠は地方税法第341条第5号です。
5.実勢価格
実際に売買されている取引価格。時価です。さらに4つの価格に分類できます。売主の売希望価格、仲介する宅建業者の査定(助言)価格、市場での売出価格(媒介価格)、成約価格です。
仲介する宅建業者が価格に関して売主に助言するためには、根拠が必要とされています(宅地建物取引業法第34条の2第2項)。そのために、公益財団法人不動産流通推進センターは業者向けに「価格査定マニュアル」(戸建住宅用、RC戸建住宅用、住宅地用、マンション用の4種類)を販売しています。このマニュアルに沿って算出した価格は根拠となり得ます。
また、「価格査定」による価格と、不動産鑑定士が不動産鑑定評価に関する法律に基づいて決定する「鑑定評価額」(具体的には不動産鑑定評価基準(総論・各論)、運用上の留意事項に則った鑑定評価業務をします)とはその目的を異にしたもので一致しません。
レインズ(REINS)
不動産業者 深田金司が言っている「レインズ」(Real Estate Infomation Network System) とは、国土交通大臣の指定した全国の4つの(公社)不動産流通機構(指定流通機構)東日本、中部、近畿、西日本が運営する不動産流通標準情報システムのことを言います。これは指定流通機構の会員である宅地建物取引業者が登録、検索、閲覧できる不動産物件情報で、売出し中の物件と成約済みの物件事例とを見ることが可能ですが、一般には公開されておりません。そこで有馬町の土地の情報を調べて来たわけです。







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