51. 共同出資の条件
まえがき
坂元八造は西川真に共同出資の条件として出資者の名称を確認します。
ストーリー

「スイス国内には、アメリカ合衆国司法省の麻薬取締局(DEA)の捜査員が観光客を装い、日常スイスの銀行の出入客を調査しています。また、アメリカ国家安全保障局(NSA)により政府首脳の携帯電話まで盗聴されているのです。」
「これは、恥ずかしい話ですが、世界的犯罪企業WSSP以外にも、世界中の麻薬・武器シンジケートの資金がスイス国内でマネー・ローンダリング(資金洗浄)されて、スイス銀行や証券の表の資金として世界に還元されているからです。」
坂元八造は西川真に対して静かに、諭すように話を続けるのでした。
「プライベートバンカーは顧客保護、守秘義務を誇りとしており、それこそ彼らの価値なのです。」
「当社オーナーに投資を思いとどまるように助言した伝統的プライベートバンカーは、FBIの捜査官にルートを持っていました。そしてオーナーは守りましたが、その代償として無限責任を取らなければならない状況に追いやられ、破綻いたしました。そうです、WSSPに報復として嵌(は)められたのです。」
「当ホテルは今回初めて日本に進出いたします。まず日本で成功し、それを足がかりに極東アジア地域の展開を目指しております。そのため、アメリカ当局の脱税調査官、インターポールなどよりできるだけ危険を避けるための情報を収集してきたのです。」
「江川さんより配布されたこの資料では、設立されるSPC(特別目的会社)はしぶがき銀行をメインバンクとしてノンリコース・ローンの融資を受けてデット(負債)を、特例投資家である匿名組合員から出資を受けエクイティ(資本)の調達を受けるスキームにされています。」
「これは私募として出資者の氏名・名称を秘匿されていますが、もし、WSSPが日本に設立した一般社団法人日本名勝保護協会(JSSP)が出資者に名を連ねているのでしたら、残念ながら我々はシャトルバスの共同出資を前向きに検討できないのですが、いかがですか。」と、坂元八造は西川真に迫りました。
「どうなんじゃな。」と、深田理事も強く確認します。
緊迫した、時が凍りついた状態から、数秒後、西川真はゆっくりと口を開きました。
「個別具体的な取引が『疑わしい取引』に該当するか否かについては、当社において保有している顧客の属性、取引時の状況その他当該取引に係る具体的な情報を総合的に勘案して判断し、該当すると判断した場合には当局に通報する義務があることは存じております。」
「出資者にその一般社団法人が含まれているかどうか、そして『疑わしい取引』に該当するかどうかも含めて確認する時間を頂きたい。」
西川は立ち上がり、一礼をして退出したのでした。
解説
疑わしい取引の確認方法
犯罪収益移転防止法ではマネー・ローンダリング、テロ資金供与防止のため『取引時の確認方法』等が規定されています。注意点として、
1.顔写真のない本人確認書類について
健康保険証、国民年金手帳、児童扶養手当証書、母子健康手帳などの顔写真のない本人確認書類を使用する場合は、提示に加え、その他の書類の提示を行うなど、追加の対応が必要になります。
2.法人の実質的支配者について
議決権の保有その他の手段により、当該法人を支配する「自然人」にまで遡って確認が必要になります。
3.法人の取引担当者の確認について
取引担当者が正当な取引権限を持っていることの確認に、「社員証」は使えず委任状等が必要になります。また、「登記事項証明書」は、取引担当者が代表権を有する場合のみ使用できることになります。
4.その他
・マネー・ローンダリングの疑いがあると認められる取引その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引についても取引時確認が必要となります。
・1回当たりの取引の金額を減少させるために、取引を分割したことが一見して明らかである場合についても取引時確認が必要となります。
・外国の重要な公的地位にある者等との取引がハイリスク取引に追加されます。
※ハイリスク取引とはマネー・ローンダリングのリスクが高い取引のことを指します。また、当該取引が 200万円を超える財産の移転を伴う場合には、資産及び収入の状況も確認が必要です。
取引の届出の参考事例(宅地建物取引業者の事例)
疑わしい取引の届出の参考事例については、特定事業者ごとに、所管行政庁がウェブサイトで公表しています。ここでは宅地建物取引業者が疑わしい取引に該当する可能性のある取引として特に注意を払うべき取引の類型を例示したものをご紹介いたしましょう。
第1 現金の使用形態に着目した事例
1.多額の現金により、宅地又は建物を購入する場合(特に、顧客の収入、資産等に見合わない高額の物件を購入する場合。)
2.短期間のうちに行われる複数の宅地又は建物の売買契約に対する代金を現金で支払い、その支払い総額が多額である場合
第2 真の契約者を隠匿している可能性に着目した事例
3.売買契約の締結が、架空名義又は借名で行われたとの疑いが生じた場合
4.顧客が取引の関係書類に自己の名前を書くことを拒む場合
5.申込書、重要事項説明書、売買契約書等の取引の関係書類それぞれに異なる名前を使用しようとする場合
6.売買契約の契約者である法人の実体がないとの疑いが生じた場合
7.顧客の住所と異なる場所に関係書類の送付を希望する場合
第3 取引の特異性(不自然さ)に着目した事例
8.同一人物が、短期間のうちに多数の宅地又は建物を売買する場合
9.宅地又は建物の購入後、短期間のうちに当該宅地又は建物を売却する場合
10.経済合理性から見て異常な取引を行おうとする場合(例えば、売却することを急ぎ、市場価格を大きく下回る価格での売却でも厭わないとする場合等)
11.短期間のうちに複数の宅地又は建物を購入するにもかかわらず、各々の物件の場所、状態、予想修理費等に対してほとんど懸念を示さない場合
12.取引の規模、物件の場所、顧客が営む事業の形態等から見て、当該顧客が取引の対象となる宅地又は建物を購入又は売却する合理的な理由が見出せない場合
第4 契約締結後の事情に着目した事例
13.合理的な理由なく、予定されていた決済期日の延期の申し入れがあった場合
14. 顧客が(売買契約締結後に)突然、高額の不動産の購入への変更を依頼する場合
第5 その他の事例
15. 公務員や会社員がその収入に見合わない高額な取引を行う場合
16. 顧客が自己のために取引しているか疑いがあるため、真の受益者について確認を求めたにも関わらず、その説明や資料提出を拒む場合
17. 顧客が取引の秘密を不自然に強調する場合
18. 顧客が、宅地建物取引業者に対して「疑わしい取引の届出」を行わないように依頼、強要、買収等を図る場合
19. 暴力団員、暴力団関係者等に係る取引
20 .自社従業員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引
21. 犯罪収益移転防止管理官(※)その他の公的機関など外部から、犯罪収益に関係している可能性があるとして照会や通報があった取引
(※)警察庁刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官(JAFIC)
参照:「不動産の売買における疑わしい取引の参考事例(宅地建物取引業者) 」国土交通省サイト
参照:「JAFIC(犯罪収益移転防止対策室)」警察庁サイト







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