54. 破綻の覚悟
まえがき
西川真は自身の破綻につながる覚悟の決断をします。
ストーリー

大阪市北区と中央区の境、堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島にある地上31階建の高層集合オフィスビル「中之島丸井ビルディング」内の高層階に株式会社西川アセットコンサルタントはあります。その社長室で、西川真は壁一面がガラス張りの窓際に立ち、堂島川をナイトクルーズする遊覧船を見下ろして自身の生い立ちを振り返っていました。
幼少期に両親と死別し、引き取られた福岡市の親戚宅での邪魔者扱いに居たたまれず飛び出し、路上生活でゴミを漁る日々の中で、ときどき売れ残った博多ラーメンを食べさせてくれたのが、屋台を引くおいちゃんでした。
西川はおいちゃんの屋台を押すようになり、いつしか一人暮らしのおいちゃん宅に寝泊りするようになり、やがておいちゃんは役所に掛け合い、西川を小学校に通わせてくれるようになりました。
夜明けまで屋台を押す日々、学校では居眠りすることも多々ありました。やがて県立高校生になった西川に、おいちゃんは屋台を押すことを禁止し、「お前はもっと勉強して大学に行き、偉くなれ。」と、本を買うお金を渡してくれるようになりました。
西川は高校を出たらおいちゃんの跡を継いで屋台を引いて楽をさせてやりたいと訴えたのですが、おいちゃんは頑として聞き入れませんでした。
神戸の国立大学経営学部の夜間に合格したときに、涙を流して喜び、「お前は俺の誇りだ。」と言ったおいちゃんの顔が忘れられません。
奨学金を受け苦学して卒業し、稼げるようになってからも、山あり谷ありの人生でしたが、西川は博多の病院に入院しているおいちゃんに送金を欠かしたことはありませんでした。
「おいちゃんに謝らないといけない。」と、西川は自身が破綻し、おいちゃんの「誇り」でなくなることの覚悟をしました。
特定事業者として社団法人日本名勝保護協会(JSSP)の取引時確認には問題はありませんでした。しかし、得意先の総合商社宅安物産の役員の紹介ということで、自分の中で大丈夫だろうという甘さがあったことは否めません。その責任を取らなければならないと西川は決断したのでした。
この決断により、有馬地区高級会員制ショッピングモール事業の大口投資家である日本名勝保護協会(JSSP)を失うことになり、また得意先である宅安物産との縁も切れるであろうことは予測できました。
そして事業を継続させるには他の投資家を探すしかない、もし見つからなければ有馬地区の地権者に自社が全て補償するしかないということを受け入れたのです。
翌朝、西川真はやはり筋として、日本名勝保護協会(JSSP)との取引を中止する前に、紹介者の宅安物産の役員宅安漬雄に報告することにしました。
宅安物産はかつて1970年代に吸収合併されて消滅した総合商社宅安商事の創業者一族が新たに立ち上げた商社ですが、わずか50年で急成長した企業です。その裏には莫大な資金提供者の存在が噂されてきました。宅安漬雄もその一族で、社長の甥なのです。
「やあ、西川君、先日紹介してもらったジャパン・フィクション・エステート投資法人の株価(投資口価格)は順調だねえ。分配金利回りも高水準だし、またこんなのを教えてくださいな。」と、宅安漬雄は秘書がまわした電話に上機嫌で出ました。
「で、今日は何の用件だい。」
「お忙しいところ、お時間を割いていただいてありがとうございます。実は、ご紹介いただいた兵庫県有馬地区の用地買収の件で、ご報告しなければならないことがございます。」
社長室のデスクの受話器を握る手に力が入り、手のひらに汗をにじませながら、西川真は普段より努めて抑えた口調で話します。
「特定事業者として、一般社団法人日本名勝保護協会(JSSP)様との取引が「疑わしい取引」に該当する可能性がございますので、その確認が済むまで用地買収を停止せざるを得ません。」
「特に、協会を間接的に支配する者の存在を確認したいと思っております。」と、西川はそこまで話して宅安役員の反応を待ちました。
「君は何を言っているのか分かっているのか。私が紹介した相手を疑うのか。私の方で日本名勝保護協会は何ら問題のない団体であることは確認している。そんな確認など必要ない。」と、激高した宅安漬雄の声。
やや間を置いて、怒りを抑えて宅安漬雄が続けます。
「いいか、よけいなことはするな。考えるな。依頼された買収を進めれば良いのだ。この件は私に任せろ。私が紹介した責任でもう一度確認して返答する。それまで待て。」と、強い口調で言います。
西川真は買収交渉は停止し2週間だけ宅安役員からの返答を待つことにしました。
返答がなければ、かねてからの疑問である、有馬焼窯元清和の工房から六甲山系にかけての山林、有馬川に沿った土地は価格に構わず買収を進めるように日本名勝保護協会(JSSP)に強く指示されているが、何故このプロジェクトに必要なのかが「疑わしい取引」に該当するとして、当局に届出をすることを心に決めたのでした。
解説
賃貸不動産投資
J-REIT (Japanese Real Estate Investment Trust) は、日本版リートと呼ばれる、日本版不動産投資信託のことを言い、賃貸用不動産を投資対象とする金融商品です。その基礎知識は、「38.国土買収の方法」で解説していますので、ご覧下さい。
不動産証券化の投資先としては、オフィス、住宅、商業施設、倉庫、ホテル、ヘルスケア施設、複合施設、インフラ、その他があります。投資法人としても、オフィス(事務所)主体型、賃貸住宅主体型、商業施設主体型、物流施設主体型、ホテル主体型、ヘルスケア施設主体型、複合施設主体型等と分類でき、投資家がどの分野の賃貸用不動産に投資したいのかで投資法人を選ぶことが可能です。
東証に上場している投資法人の投資口価格は1口当り数万円~数十万円となります。これでは投資金額として大きいと思う方、どの投資法人に投資すれば良いのか迷う方には、ETFがお勧めです。
REIT指数連動型ETF(東証)では、複数の投資法人口に分散して投資でき、数千円~1万円台で投資することが可能です。
実質分配金利回りも1~4%程度あり、保有している間、年4~6回分配されます(無配当の場合もあります)。
現物不動産投資は、ワンルームマンションの購入でも、当初数百~1千数百万円程度の出費がかかります。利回りは6~12%程度であっても、管理組合に納める管理費・修繕積立金や、固定資産税等の保有税、メンテナンス費用、管理業者報酬などを引くと、実質の利回りはかなり低くなります。さらに心配なのは長期間の空室状態が続く危険性があり、立地(特に交通の便)が悪いと空室状態が長引きますので、土地を所有されていない一般の方の投資としては結構冒険になります。
賃貸不動産の相続
金融資産のままで相続させるよりも、賃貸不動産を購入して相続させる方が、固定資産税評価額が市場相場よりも低く、借家権割合も適用できますから、かなり相続税を抑えることができるので、相続対策としての実物不動産購入はなされています。
貸家の課税評価
課税時期において貸家の用に供されている家屋は、その家屋の固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を、その家屋の固定資産税評価額から控除して評価します。

貸家建付地の課税評価
貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地をいいます。賃貸アパートや賃貸マンションの敷地です。貸家建付地の評価はこの通りです。

「賃貸割合」は、貸家の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分をいいます。)がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて各独立部分の合計床面積の内の課税時期に現に賃貸している独立部分の床面積の割合です。
なお、小規模宅地の課税価格の減額の特例で、貸付事業用宅地等に該当する宅地等の200㎡を限度として、相続税の課税価格に算入すべき価額の50%減額を受けることができます。
参照:「No.4602 土地家屋の評価」、「No.4614 貸家建付地の評価」、「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」国税庁サイト








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