5. 極東の防波堤

2025年5月6日

まえがき

 みやこ財団では国土防衛会議が開催されています。

ストーリー

電磁パルス(イメージ)

 東京都千代田区麹町一丁目、新宿通り「半蔵門」交差点の近くに立地し皇居と秘密の地下通路でつながっている公益財団法人みやこ財団ビルでは、地下2階の特別会議室で国土防衛会議が開催されています。この特別会議室は馬蹄形式の会議テーブルが二重になっており総80席もありますが、議長のさかきみやこ財団理事長以下財団理事と官邸の各大臣、各省庁事務次官級の役人が列席しており、末席にファミリーオフィス銀座代表 伊勢信一郎の姿も見受けられます。

 先ず榊理事長に指名された女性防衛大臣がスッと立ち上がり、背筋をピンとし腰から体を倒して列席者に一礼しました。次期総理に再度挑戦することに与党内からも支持の高い才媛で、自信と覚悟の強い意志が感じられます。

 「防衛大臣の高石紗英たかいしさえでございます。みやこ財団の理事の皆様方には国防への多大なご協力感謝申し上げます。では、半島情勢についてご報告させていただきます。ご存知の通り北の金朴恩キム・パクウン委員長は中国西部の新国家に亡命しました。その後の北は中国主導の新政権が発足し、核の完全放棄、南との統合に向けて半島は進み始めております。ただ半島北部ではロシアによる一部実質支配も観測されておりますが、この越境に関して中国との紛争は起こっておりません。なにがしらの密約があるようです。なおこの亡命についてはG7も了解済であります。」

 ここで一息をつき、高石防衛大臣は我が国に及ぼす影響について発言を続けます。

 「そのためアメリカにとっての極東の防波堤は今後は日本のみが担うこととなります。しかも相手は中国とロシアです。政権としては地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3)の追加配備、航空母艦建造、「たいげい」型潜水艦建造など防衛予算の大幅な増額が必要やむを得ないとの判断ですが、果たして国民の支持を受けられるかが問題です。」と、高石防衛大臣は次官より渡された原稿を持つ手を僅かに震わせながら、緊張した顔で報告します。

 「日本経済の現状はタロット大統領の追加関税と日本銀行の金融政策異次元緩和終了の余波により、輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇により物価上昇率の押し上げが続いており、国民は疲弊していることが内閣支持率の低い水準に表れております。」と、高石防衛大臣は列席の内閣官房長官の顔をチラッと見て批判的に述べました。

 榊理事長は一旦高石防衛大臣を着席させ、内閣官房長官を指名します。ゆっくりと両手を大きな馬蹄形の会議テーブルに付いて立ち上がった内閣官房長官 葉梨義政はなしよしまさは、慎重に言葉を選びながら次のように発言しました。

 「みやこ財団の皆様方には我が国の為にご尽力頂き、総理に代わり感謝の意を述べさせて頂きます。さて、極東の防衛ラインとしてペトリオット等ならまだ良いのですが、アメリカは日本に核兵器の保有を強いてくるのではないかと危惧しております。我が国が最初に原爆を投下された被爆国であり、国民の同意を得られないことは十分承知の上で、あのタロット大統領なら緊急に核配備の決断を迫ることも有り得ます。」

 「高高度電磁パルス(EMP)核ミサイルの配備と考えて良いのですかな。」と、榊理事長。

 「その通りです。非致死性攻撃なので心理的抵抗が少ないだろうとタロット大統領は強硬に主張することが予想できるのです。」と、葉梨内閣官房長官も苦渋の表情で答えます。

 榊理事長は再び高石防衛大臣を指名します。

 「では続けさせて頂きます。こちらは金朴恩委員長が亡命した中国西部の新疆しんきょうウイグル自治区カシュガル地区内に独立宣言した国家でありますが、その中心部をアメリカ軍事衛星が撮影した画像でございます。」と、高石防衛大臣は議長の榊理事長席の後方壁に設置された300インチのモニタースクリーンに投影された画像をレーザーポインターで指し示します。

 「なんだ、全然見えないじゃないか。雲に覆われているのか。」と、どよめく声。

 「いえ、黄砂による砂嵐が発生しているものと思われます。では、我が国の偵察衛星が連続撮影した画像をご覧頂きます。」

 「独立国家の立地する新疆ウイグル自治区は北南西の三方を山脈に囲まれ、非常に乾燥した温帯砂漠気候ですので、タリム盆地で黄砂が発生し、空を覆っているものと思われます。タクラマカン砂漠と申し上げた方がお聞き覚えがございますでしょうか。」

 「ただ、黄砂は風に流され、東部や韓国、日本にもたどり着くのですが、ご覧のようにこの黄砂は砂嵐となり一定の地域を巡回しているように見えます。」と、高石防衛大臣は連続撮影画像を分析します。

 「その砂嵐に人工的な力が考えられ、しかも何かを隠している、と言うことでよろしいですか。」と、榊理事長は確認します。

 「その通りです。どのようにしてこのような砂嵐を発生させているのかは分かりません。しかも隠されているのは何がしかの建造物でしょうが、位置も形も大きさもまだ判明しておりません。ただ、世界中から集められているCNT(カーボンナノチューブ)もどこかに利用されているのでしょう。」

 「潜入捜査しろよ。」と、列席者の中から大きな太い声が響きます。

 「万屋よろずや理事、発言は指名を受けてから立ってするように。」と、榊理事長が注意します。万屋理事は相手が誰であれお構いなしです。

 「ではこの件は進捗状況を次回に報告頂きます。」と、榊理事長は次の議題に進めます。

解説

G7

 日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、カナダの主要7か国と欧州連合(EU)のグループであり、毎年持ち回りでサミット(主要国首脳会議)で世界の経済・政治的課題について討議されています。

 2023年5月19~21日には日本が議長国として「広島サミット」が開催され、G7とEUの他に招待国8カ国も参加しました。今回の議題では特にロシアによるウクライナ侵略に対する対処について話し合われました。国際秩序を維持し、対露制裁及びウクライナ支援を強力に推進していくことが決議されました。なお、ロシアはもちろん、中国も本サミットには参加しておりません。

極東の防波堤

朝鮮半島北部の北朝鮮の主要貿易相手国

  1. 中国(7.6億ドル)
  2. ロシア(0.4億ドル)
  3. ベトナム(0.1億ドル)

 平成29年9月に採択された国連安保理決議第2375号においては、国連加盟国は北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)を容易にし、又は関与することが禁止されていますが、この瀬取りの実際の額は上記には記載されておりません。

(2020年(KOTRA、推計)、外務省サイト「北朝鮮基礎データ」より)

朝鮮半島南部の大韓民国の主要貿易相手国

  1. 輸入:中国、米国、日本、オーストラリア、ベトナム
  2. 輸出:中国、米国、ベトナム、日本、香港

 (出典:2023年、韓国貿易協会)

 2024年通期での貿易収支は515億9,200万ドルの黒字でした。(韓国関税庁発表、JETROサイトより)

 上記の通り、朝鮮半島の貿易相手国は圧倒的に中国であり、中国とアメリカのどちらの話を聞くかというと、中国の方を向くのは仕方がない状況です。また、トランプ大統領も韓国に米兵を派遣する費用負担をさせたいわけで、将来米兵の撤退もあり得ます。そうすると、日本が極東の防波堤として大きな負担を強いられることが考えられるのです。

高高度電磁パルス(EMP)核ミサイル

 高度40kmを超える高高度で核爆弾を爆発させることにより、広範囲にパルス状の電磁波を発生させて半導体や電子回路、コンピューターに壊滅的な損害を与えるミサイルです。高度100~数百kmで爆発させることもできます。銀行オンライン、通信、ライフラインや交通システムも停止し、莫大な影響を与えます。しかし、人体に物理的攻撃を与えるものではありません。電磁パルス爆弾は核を使用しないものも研究されていますが、核使用ほど広範囲ではなく、影響を与える範囲が限定されています。