40. しぶがき銀行本店
まえがき
しぶがき銀行本店の応接室で不動産コンサルタント西川 真は川西達郎を待ちます。
ストーリー

「本当にこちらの部屋でよろしいのですか。」
神戸旧居留地にあるしぶがき銀行本店2階で、プライベートバンキング部長 横縞寅男が尋ねます。
「こちらで結構です。」と、不動産コンサルタント 西川 真は答えます。
ブルックスブラザーズのネイビーの6つボタンのダブルブレストブレザーにグレーのパンツ、ホワイトのボタンダウンシャツにゴールドのレジメンタル・ストライプタイが西川 真の細身の身体に良く映えています。
足にはダークブラウンのモンクストラップシューズ、左手首にはタイメックスの腕時計という典型的なアメリカン・トラディショナルスタイルで、黒髪はオールバックにしています。
週2回のジム通いで175cmのしなやかな体型は20歳の頃から約30年変わっておらず、年齢よりはるかに若々しい姿を保っています。まるでオールディーズ時代のヤンキーがそのままリッチなイケオジになったようです。
西川 真は、横縞寅男が用意していた一番広い特別応接室を断り、8帖ほどの広さの応接室の用意を願いました。
応接室の奥側には黒革張りの2人掛のソファがあり、センターテーブルを挟んで、入口側にアームチェアが2席置いてあります。
後はサイドスツールが1つと、入口横に電話台、奥側の壁に神戸港と帆船を描いたF8号サイズ(455×380mm)の油絵が1枚掛かっているだけで、部屋はほぼいっぱいの広さしかありません。
彼は、いつも顧客と詰めた話をする際には、狭めの部屋を選んでいます。
経験上、広すぎたり装飾が多い部屋は相手の気が散り、また決断するのに考える時間を与えすぎるのです。また、狭い方が相手との親近感・一体感を高めやすいと思っているからです。
そして、横縞寅男が奥側の2人掛けのソファを勧めるのを断り、入口側のアームチェアの奥の席に座ったのです。
隣のアームチェアには、連れて来た20代後半のスーツ姿の青年を座らせました。
西川 真は、青年のワイシャツの襟のボタンをかけさせ、ネクタイをキチッと締め直させました。
サイドスツールに座った横縞寅男と西川 真が雑談をしている間、藤原台支店の木津根支店長は入口ドア外の廊下で川西達郎の来店を待っています。
しばらくして、横縞寅男が出てきて、「じゃあ、木津根君、後は頼むよ。」と言って立ち去るのを苦々しい思いで見送りました。
「くそっ、上手いことしやがって。」と、心の中で横縞寅男の後ろ姿につばを吐きかけるように言いました。
たたき上げの自分と違い、信託銀行からの引き抜きの同じ年の横縞寅男には、しぶがき銀行役員の席が用意されているともっぱらのうわさなのです。
「絶対、ほしがきクレジットの社長になってやる。」と、木津根支店長はつぶやくのでした。
解説
M&A面談
事業承継を外部企業がする場合、初めて面談する際に気を付けるべきことを説明しましょう。
まず、交渉の流れとしては、
1.事業の譲り渡し側と譲り受け側は、間に仲介者を立てて交渉するか、それぞれの側がアドバイザーの助言を受けて交渉します。
2.事業承継相手を選定する段階では、譲り渡し側から提供される企業名を伏せた「譲渡情報(ノンネーム情報)」を譲り受け側が検討し、買収交渉するかを判断することになります。
3.初めて面談する場所は、仲介者の事務所か譲り受け側の事務所にします。譲り渡し側の事務所は、従業員等の目もあり秘密保持のため、避けた方が無難です。
4.面談の目的は、事前情報だけでは明らかでない点を確認し、買収交渉を進めるかどうかを判断することです。
5.面談で確認する事項は、譲渡価格、社長及び社員の処遇、契約時期等の条件です。
6.初めての面談で直接交渉しにくいことは、後で仲介者等を通して調整します。
譲り渡し側が気を付けるべきことは、自社と譲り受け側企業の経営理念や企業文化にあまりにも差がないかです。これは譲渡後の社長及び社員の処遇に影響し、適応できずに早期退職になる危険性を避けるためです。
譲り受け側が気を付けるべきことは、上記の経営理念や企業文化についてはもちろん、譲り渡す側の事情や経営者の気持ちを尊重することです。間違っても、「買ってやる」という態度で接しないことです。まとまる話もまとまりません。
西川 真がしぶがき銀行の応接室で、上座の奥側のソファではなく、下座の入口側の席を選んだのは、彼が「買わせていただく」という気持ちで交渉の場に臨んでいるからです。








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