42. 四代目清和
まえがき
有馬焼窯元三代目清和の川西達郎と花子は四代目候補者の意外な人物に驚きます。
ストーリー

口を開こうとする純朴そうな青年の右肩を、隣に座っている不動産コンサルタント西川 真が左手で抑えます。
「川西さん、お会いになったことがございますよ。思い出しませんか。」と、青年の代わりに西川 真が言いました。
「いや、どこやったか、いつやったかな。」と、川西達郎。
「奥様は彼をご存じないですか。」と、西川 真は花子さんに尋ねます。
花子さんは青年の顔をまじまじと見てしばらく考えました。
「あーっ!もしかして、あっちゃん?」と、花子さんは驚いてもともと大きな地声をさらに大きくして叫びました。
「そうです。おじさん、おばさん、お久しぶりです。丹波立杭焼和丹窯の和田篤二郎です。」と、青年が身を前に乗り出してうれしそうに言いました。
「おお、大きくなったなあ。本当に、あのちょこまかしていた篤二郎なんか。」と川西達郎もその成長にびっくりしています。
「そんで、何でこんなとこにおるんや。」
「川西さん、彼がここにいるのは、有馬焼の四代目清和にしていただきたいからです。」と、西川 真が答えました。
兵庫県丹波篠山市にある丹波立杭焼は、瀬戸焼、常滑焼、信楽焼、備前焼、越前焼に並ぶ日本 六古窯です。有馬焼の初代清和はこの古窯で修行を積み、有馬の炭酸水を用いた釉薬で、独特の味わいのある色を持つ有馬焼を生み出したのでした。
また、川西達郎自身も丹波篠山市の出身でしたので、修行中に何度も勉強に行っていたのです。特に和丹窯では、漆黒で光沢のある飴黒釉に魅了され、結婚後も花子さんといっしょにたびたび訪れていました。和田篤二郎はその窯元の次男坊だったのです。
「いや、しかし、和丹窯の伝統を受け継がなあかんやろ。窯元も期待してるやろし。」と、川西達郎は突然のことで混乱しています。
実は、息子の俊夫を後継者にすることを諦めたとき、丹波立杭焼の窯元の中から誰か後継ぎになる者をお願いできないかと考えたこともあったのですが、どこも後継者問題では悩みは同じであろうと、思いとどまったのです。
「おじさん、父から手紙を預かっています。」と、和田篤二郎は上着の内ポケットから封筒を取り出して、川西達郎に手渡しました。
封筒の表には「有馬焼窯元清和殿」と書かれ、裏を返すと、「和丹窯六代目和田正作」とあります。
川西達郎は思わず封筒に頭を下げて、丁寧に封を開けました。
「お父ちゃん、何て書いてあるん。」と、花子さんが覗き込みます。
「まあ、待て。いま読むから。」と、川西達郎は咳払いをして読み上げます。
「三代目清和殿に篤二郎を託す」と、そこには書かれていました。
「えっ、そんだけ。お父ちゃん。」と、花子さん。
「いや、これで十分や。」と、川西達郎は手紙を封筒に戻しました。
「あの厳しい窯元が、わしに託されたんや。有難いことや。」と、川西達郎は目を閉じて言いました。
「おじさん、和丹窯の七代目は兄が継ぐことになりました。」と和田篤二郎が補足します。
「川西さん、今回株式をお譲りいただいた後ですが、有馬焼窯元清和の相談役として一年間残っていただき、彼を四代目として教育していただきたいのです。」と、西川 真が述べました。
解説
M&A手続きの流れ
有馬焼窯元のM&Aの場合、譲り受け側が西川アセットコンサルタントの一社だけなのですが、一般的には譲渡を希望する企業よりも購入を希望する企業の数の方が多いです。
したがって、譲渡を希望する企業は数社の購入を希望する企業に情報を提供し、条件交渉して一社に絞り、面談を経て「基本合意」に至るわけです。
事業譲渡が完了するまで、少なくとも基本合意書を締結するまでは秘密にしなければなりません。従業員が不安に感じたり、取引会社が倒産する疑いを持って取引停止をしたりする危険があるからです。
また、関係者が多くなるほど秘密漏洩の危険は増えます。M&A仲介者やアドバイザーを複数依頼する場合、複数の購入希望企業と交渉する場合などです。
したがって、面談に進むまでに購入希望企業に提出する譲渡情報は「ノンネーム情報」として、売却希望企業名は伏せるのです。
仲介者あるいはアドバイザーには、依頼当初に仲介業務委託契約書(又はアドバイザリー契約書)を締結する際に「秘密保持条項」を入れておくか、別途秘密保持契約書を締結します。
また、面談まで進める企業には社名や実績を全て明かして情報提供しなければいけません。したがって、優先順位をつけて、一番手の企業より企業名等を明かして面談に進めます。一番手の企業との面談交渉が不調ならば、二番手の企業に企業名等を明かして面談するという具合です。
仲介者あるいはアドバイザー側にとっては、できるだけ早く仲介業務委託契約書(又はアドバイザリー契約書)を結びたいのですが、なかなか面談がうまくいって基本合意に至るまでは、譲渡側や買収側企業が契約を結んでくれない場合もあります。完全成功報酬制にしている場合などです。
その場合は、基本合意書締結と同時に仲介業務委託契約書(又はアドバイザリー契約書)を締結し、秘密保持契約書は売主と買主、仲介者(又はアドバイザー)の署名欄を設けます。








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