14. 調査指令

2024年8月25日

まえがき

 数十年ぶりに戻った京都で伊勢信一郎は恩師に再会します。

ストーリー

京都・先斗町(ぽんとちょう)

 京都市上京区、市内を南北に走る烏丸からすま通と東西の今出川通の交差点、赤レンガ建築の美しい同志社大学今出川校地の南向いに、京都御所とそれを囲む広大な国民公園である京都御苑があります。約5万本の樹木は紅葉も進み、約91万平方メートルの敷地内には多くの市民と観光客が訪れています。

 その中に伊勢信一郎の姿がありました。ベージュ色の丸首のセーターに草色のチノパンツという普段見られないラフな格好をしています。彼は学生時代に京都で暮らしたのです。鴨川をはさんで東側、百万遍にある大学で国際金融論を専攻し、その後長らく海外生活を送りました。そして帰国後もオフィス開設に忙しく、本当に久しぶりに戻ってきたのです。

 「懐かしい、何もかも。」と、若かりし時代の思い出が走馬灯のように彼の心にこみ上げてきます。

 御所の朱色の柱の承明門から公式儀式場であった紫宸殿ししんでん、明治天皇が東京行幸されるまでの居所であった御常御殿おつねごてんを拝観し、その後今出川通を東へ、母校の正門から百年時計台を見上げた後、哲学の道を紅葉を楽しみながら散策しました。

 その夜、三条通を南へ、鴨川と木屋町通の間の花街 先斗町ぽんとちょうの鴨川を眺める京会席の一室で、上品な黒の3つボタンのスーツを着て、クリーム色でペイズリー柄の、シルクのネクタイを締めた彼は恩師と再会しました。秋になり川床に出れないのがとても残念です。

 「榊先生、ご無沙汰しておりました。」と、両手を突きます。

 「こら、大の男が軽々しく頭を下げるな。わしの方が無理を言ったんじゃから。」と、京帝大学経済学部 東南アジア経済研究センター名誉教授 榊周治さかきしゅうじが諌めます。細いが背筋がピンと伸びたとても88歳とは思えない矍鑠かくしゃくたる老人です。薄い緑色の紬の着物に濃い茶色の羽織と袴が良く似合っています。

 「まあ、一杯いけ。」と、差し出された2合の熱燗を両手で持つお猪口ちょこで受けます。

 「ただ、探したぞ。まさか「伊勢」などど名乗っているとは思わなんだからな。」

 「そんなに家名を名乗るのが嫌なのか。」と、笑いながら聞きます。

 「申し訳ございません。」と、伊勢。

 「まあ、重荷だからな。それはわかる。しかし、我々が君を選んだのは単に優秀であるからだけではないのだぞ。」

 「分かっております。」といい、杯を返しました。

 会席料理が運ばれた後、人が引くのを待って本題に移ります。

 「それでだ、兵庫県の山林を調べてほしいのだ。」

解説

不動産の法的定義

 不動産の法的定義について解説しましょう。

 不動産の定義は、「土地及びその定着物は、不動産とする。」と民法第86条1項に規定されています。不動産以外は動産とされています。ここで「建物」とされずに「定着物」となっていますが、民法の条文上に「定着物」の定義はありません。

 しかし、過去の判例(裁判所の判決)では、「定着物とは自然の形状に基づき、土地に付着したものをいうが、その自然の状態を毀損しなければ分離・移動できない物に限る趣旨ではない。」とあります。この裁判では、工場の機械が土地の定着物又は従物であるとしました。

 一方、別の判例では、「土地の定着物とは一時の用に供するためでなく、土地に付着するものをいう。」ともされています。この裁判では、仮植中の草木は土地の定着物ではなく、動産であるとしています。

 また、課税する際の判断基準となる国税徴収法基本通達では、第68条で差押えの対象となる不動産について次のように規定しています。

1 法第68条の適用を受ける財産は、次に掲げる財産(以下「不動産」という。)である。

(1) 民法上の不動産

   土地及び土地の定着物

(2) 不動産を目的とする物権(所有権を除く。)

   地上権及び永小作権

(3) 不動産とみなされる財産

   立木法による立木、工場財団、鉱業財団、漁業財団、道路交通事業財団、港湾運送事業財団及び観光施設財団

(4) 不動産に関する規定の準用がある財産

   鉱業権、特定鉱業権、漁業権、入漁権、採石権及びダム使用権

(5) 不動産として取り扱う財産

   鉄道財団、軌道財団及び運河財団

 つまり、不動産といっても土地と建物だけではなく、定着する機械や立木に関する法律により所有権保存登記された立木、その他工場財団などの各種財団などを含むのです。さらには登記又は登録された自動車・船舶や航空機も不動産に準ずる扱いがされています。

 なお、土地と建物は別個の不動産とされ、それぞれが所有権の対象となり不動産登記されています。