10. 社会保障

2024年8月25日

まえがき

 坂元八造と金田俊哉はファミリーオフィス銀座の入社手続きをします。

ストーリー

健康保険証

 坂元八造はUR賃貸(旧公団)『竹の塚』団地のエレベーターなし5階建の4階部分にある自宅を出て、東武伊勢崎線「竹ノ塚」駅の5時8分発の始発電車で出勤しています。「日比谷」で下車して毎日6時過ぎにオフィスに到着すると、他の人が出社するまで掃除を丁寧にするのです。彼は所長の言った「執事」が気に入り、まずは掃除を徹底的にすることから始めようと思ったのです。

 ファミリーオフィス銀座には所長の他はまだ3人の社員しかいません。そのうち一人は、面接時に紅茶を出してくれた女性で坂元は秘書だとばかり思っていました。しかしその女性社員は坂元と同時に入社した若い男性社員の教育係となったのです。いろいろ優しく教えてもらう中で、名前は栗原美雪さんで保険のスペシャリストであることが分かりました。

 同時に入社した30歳前の長身のモデルのような容姿の目のギラッとした男性ですが、元外資系銀行マンとのこと。その彼が、「あの女はすごいですよ。どこの保険会社にも少ししか保有者がいない資格を持っています。しかも抑えているけどかなり美人で教え方も上手だし。銀座でチーママしてても不思議じゃないですよ。」とよけいなことまで教えてくれましたが、この男自身も只者ただものではない感じがしています。

 「坂元さん、保険証ができましたので奥様の分と2枚お渡しします。」と栗原さんが全国健康保険協会(協会けんぽ)の水色の健康保険被保険者証を手渡しました。坂元はこれまでの人生ではずっと公立学校共済組合の組合員証で退職後も任意継続していたので、初めての健康保険証をじっと見つめました。生徒の健康保険証は見たことはありましたが、自分のものは初めてです。

 「はい、金田くんは独身なので1枚。」と隣でギラ男こと金田俊哉くんも受け取っています。

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 一方、こちら有馬焼窯元工房3階自宅では川西達郎が元気な奥さん花子さんと夕食後、有馬焼の湯飲みで熱い玉露を飲んでいます。テーブルの上には子供たちの小さい頃のアルバムを開いています。

 「この頃は二人ともかわいかったなあ。」と、達郎は写真を見ながら過去の出来事を思い返して微笑んでいます。

 「お父ちゃん、将来俊夫に譲ること考えて工房を会社にしたけど、私はいつまでも経理できひんよ。」と、最近だいぶんしんどいわと花子さんは体の疲れと衰えを伝えてきます。会社にして規模を大きくしたため経理や事務の負担が増えたことが体にこたえているのでしょう。達郎は陶器づくりと営業は得意なのですが、経理や保険は全く奥さん任せだったのです。

 「わしも従業員も経理に明るい奴はおらんからなあ。でも、金扱うことやから信用できる者でないとあかんし。」

 「こんな有馬の山奥に優秀な人なんか来てくれへんしねえ。佐紀は嫁に行ったし。」そう、長女の佐紀さんは簿記2級を取っていたので、昨年結婚して東京に行くまでは奥さんを手伝っていたのです。

 「それは最初からわかってたことや。あの娘の幸せが優先やで。」

 「誰か事務経理のできる良い人おらんかしら。」と、二人でため息をつくのでした。

解説

定年後の社会保険

 定年退職後の社会保険の選択についてお話しましょう。退職後は75歳までは次の選択ができます。75歳になると、後期高齢者医療制度に移行します。

1.健康保険を任意継続する。

 全国健康保険協会、企業健康保険組合、公務員等共済組合で資格喪失日の前日まで継続して2ヶ月以上加入し、資格喪失後20日以内に手続きをすれば、保険料は全額自己負担ではありますが 2年間被保険者になることができる制度です。年収がそれなりにあった方は国民健康保険に加入するよりも負担は少なくて済みます。

 ちなみに、全国けんぽでは任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は30万円ですから、任意保険料は40〜65歳未満の方は最高で月額34,740円 (東京都の例、令和6年度、介護保険料1.58%含む) です。

2.国民健康保険に加入する。

 国民健康保険の保険料は昨年の年収額により決定し、年間上限額が106万円(東京23区の例、令和6年度、40〜64歳(介護保険料含む)ですから、最高月額88,333円となります。

3.家族の健康保険の扶養家族となる。

 60歳以上(または障害厚生年金を受けられる程度の障害者)の場合は年収180万円未満で、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は家族の健康保険の扶養家族となることができます。

 坂元さんの場合はご本人も奥さんも昨年年収がそれなりにありましたから、再就職するまでのつなぎ期間ですが、任意継続した方が保険料負担が少なくなるので選択したんですね。

 なお、今後社会保険義務化への流れが進んで行くよう検討されています。