19. 不動産調査
まえがき
不動産講義を受けた坂元八造と金田俊哉は深田金司とともに土地の現地確認に向かいます。
ストーリー

運転を金田俊哉に代わったビンテージのクリーム色いすゞベレット1500は、助手席に坂元八造、後部座席に不動産業者の深田金司を乗せて有馬町へ向かいます。宝塚ホテルを出発し、国道176号線を北へ、生瀬を経由して県道51号線宝塚 唐櫃線、通称「有馬街道」の風光明媚な山道を進んで行きます。阪急バスの定時運行の主な路線はJR西宮名塩駅を経由して有馬温泉に向かう道ですが、こちらの旧道でも有馬温泉まで冬場を除き一部時間帯で運行されています。
「最寄り駅までどの線で来るのか、駅からどんな道を通って現地に行くのかを体験せにゃならん。梅田から阪急電鉄で宝塚駅まで来てもらったのもそういう訳じゃ。」と、深田金司が言いました。
「どうでも良いけど、ギアが固いしアクセル踏んでも加速しない!」
と、金田俊哉がビンテージのミッション車の扱いに苦戦しています。ベレットは運動性能のとても良い車で、GTはレースにも使われていましたが、人間と同様年を重ねると性能も衰えてくるようです。
「いやー、良い車です。おやじが乗っていたんです。おやじの唯一の道楽で、大事にしていたなぁ。子供の頃、運転を助手席でよく見ていました。」と、坂元八造は子供の頃を思い出しています。
慣れない運転と速度の出ない車のうえ、ときどきすれ違うダンプに肝を冷やしながら、有馬温泉には出発してから約40分かかってようやく到着しました。温泉地のレトロで落ち着いた雰囲気が湯気とともに漂ってくるようです。そして宝塚ホテルで確認した成約事例の土地を全部見てまわりました。
「どうや、資料では分からんことが現地に来たらようく分かるやろ。」
「特に斜面ではないか、道路面との高低差はあるか、道路は舗装されているか、道路幅はどの位か、道路に面した間口は何メートルあるかなどは必ず確認せにゃならん。」
「不動産は現地調査するのんが鉄則なんじゃ。」と、得々と深田金司は二人に言うのでした。
車はその後南へ、有馬トンネルと芦有トンネルを通過して芦屋市最北端の宝殿ICに出ました。そこから西へ方向を変え、クネクネした山道を楽しみながら六甲山頂を通過し六甲山スノーパーク(旧六甲山人工スキー場)の前を通ってサンセットドライブウェイへ、六甲山ホテルも過ぎました。そして丁字が辻から南下して表六甲ドライブウェイを通り、六甲ケーブル下、神戸市灘区 鶴甲、神戸大学の北側に下りてきたのです。
「地震の後、わしは水や食料を求めてな、ニコク(国道2号線)やヨンサン(国道43号線)が詰まって通れんかったから、この道を大阪まで出る抜け道にしとったんや。冬寒い時期やったから六甲山の道路も凍結しとって、ラジアルも履いてへんこのべレットが進めんなったとき、待機しとった自衛隊の若い隊員に引っ張ってもうて、テントでストーブにあたり、国防色した果物の缶詰を食わせてくれて、缶詰を何缶ももらったんじゃ。うれしかった。」
と、深田金司は当時を思い出して言いました。近畿の人にとって地震とは平成7年1月17日の阪神淡路大震災を指しています。
「これからどこへ?」と、坂元八造が道路マップを見ながら後部座席の深田金司に聞きます。
「JR三ノ宮駅を南に行ったら神戸市役所がある。そこへ向かってくれ。」
と、涙ぐんた声。坂元八造が振り返ると、深田金司は目をぐっとつぶり顔のしわを寄せてじっとしています。うれしかったことだけでなく悲しかったことも思い出したようです。坂元八造はそれ以上質問せず、前を向きました。
「坂元さん、ちゃんとナビして下さいよ。」と、金田俊哉はようやく慣れてきたベレットの運転を楽しみだしたようです。
カーナビの付いていないクリーム色の初期型ベレット1500は三人を乗せて神戸の町を走ります。
解説
不動産仲介の実情
一般消費者の方が不動産の購入あるいは賃貸物件を探している段階では、資料として不動産仲介業者が渡してくれるのは「物件概要書」だけである場合が多いです。そう、間取図または地形図が用紙にどんと載り、横に表にして概要が記載されている一枚の用紙です。
一般消費者の方は、物件を紹介する不動産仲介会社は物件の登記記録、図面類、固定資産税額の資料(固定資産公課又は評価証明書)、開発計画簿、建築確認(建築概要書)、重要事項説明書などの書類一式を全て備えていると思われるかもしれません。しかし、実際は、顧客を現地案内する際に仲介業者の営業社員の手元にあるのは、この物件概要書一枚しかないということが多いのです。もし、顧客が気に入って話が前に進むようなら、初めて本格的な調査を開始します。
これは、不動産の仲介の仕組みを理解しないと分かりづらいのですが、不動産の売主または貸主から売却または賃貸の依頼を受けた仲介業者(これを元付け(もとづけ)といいます)から他の全ての仲介業者に顧客の紹介を依頼して、買主または借主を紹介する仲介業者(これを客付け(きゃくづけ)といいます)と不動産売買や賃貸など取引の話をまとめるのです。この際の成約の協力の依頼として、レインズに物件登録をするのです。
レインズ(REINS)とは国土交通大臣の指定を受けた「指定流通機構」であり、不動産業者(宅地建物取引業者と言います)間の不動産物件情報交換のためのコンピューター・ネットワーク・システムです。一般消費者には公開されていません。
したがって、元付け業者は物件の価格査定をするために、上記の様に登記記録、役所調査等を事前に致します。そして売出し価格または賃貸価格が決まると、概要を記載した「物件概要書」を作成してレインズに登録するのです。
しかし、客付け業者のもとには日常数多くの新規物件の情報がレインズで提供されます。それら全てを元付け業者のように調査することは難しいのです。従って、入手した何物件もの「物件概要書」を手に、日常、「物件確認」(「ぶっかく」と言います)という現地確認をしています。調査というほどではないです。取引で問題になりやすい、前面道路の確認と隣地との境界や日当たりなどを確認し、建物外観の状態を目視で確認します。内覧は空家でない限り難しい場合が多いです。この際、不明点は電話で元付け業者に確認するのです。
客付け業者は顧客が前向きならば、元付け業者に詳しい資料を請求しやすいのですが、顧客がそれほどでない場合には請求しづらいです。また、元付け業者も最初から全ての資料の提供を拒む場合も多いのです。それゆえ、現地案内を受けた際に、案内した仲介営業社員に不明点を質問してもその場で答えられず、「調べて返事いたします」との返答が多くなってしまうのです。改善が必要なところです。
レインズを一般に公開するかどうかという話題もよく出てくるのですが、元付け業者が全てを登録しない問題とか、公開すると客付け業者が食べていけないとか色々と議論があり、公開に至っておりません。
住宅地図の重要性
不動産の調査を開始するのにぜひ用意したいのは住宅地図です。住宅地図は一般の道路マップとは違い、一軒一軒、一戸一戸の建物名称、居住者名が記載されているもので、不動産業、タクシー業、商店等の配送業務、宅配業者、フードデリバリーなどで利用されています。
全国展開した住宅地図はゼンリンが販売しています。市町村毎の書籍販売と業務用ソフト販売もしていますが、個人で小さな地域を調べるために入手したいなら、「ゼンリン住宅地図プリントサービス」が利用できます。PCまたはスマートフォン等で予約してコンビニエンスストアーで印刷するという方法です。1枚当たり400円(税込)です。現在はセブンイレブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップ、デイリーヤマザキ、セイコーマートのコピー機で出力できます。
業務用には「GODOOR ゼンリン住宅地図対応配達アプリ」があります。こちらは月額1,300〜円(税込)かかりますが、日本全国の住宅地図がスマートフォンで見放題の上、Google MapやYahoo!カーナビと連動もできるという優れたアプリです。無料では利用制限がありますが有料版では住居表示と居住者名まで分かります。
一般消費者の方には、「Y!マップ」が無料アプリですが戸建住宅にも住居表示が表示されているのが良いですね。 居住者名は分かりませんが、不動産を探す際に住居表示がわかれば住宅を特定できますから。残念ながらGoogle Mapにはこの機能がありません。
どうして住宅地図が必要かというと、道路マップやカーナビだけでは、近くに来ても正確な住居表示が分からないと現地にたどり着けなかったり、現地が分からなかったりすることと、役所での調査の際に場所の提示が必要で、住居表示だけよりも話が早いからです。







ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません