31. こころ傾く
まえがき
川西達郎と花子さんは工房の売却にこころ傾きます。
ストーリー

しぶがき銀行の木津根支店長と田貫次長を見送った後、川西達郎は奥さんの花子さんに顧問の柳税理士事務所に電話をいれるように頼みました。株式会社有馬焼窯元清和の持株の評価をしてもらうためです。
木津根支店長の話では、取引相場のない自社株の全部と、工房から六甲山系への尾根続きの夫婦所有の山林、そこには上流のダムから有馬町まで有馬川が流れていますが、その山林も共に買収してくれるという話で、買主はまだ明かせないが立派な会社で、経営も全く問題ないとのことでした。
川西達郎と花子さんにとっては、利用価値のない山林も含めて買い取ってくれるという、とても魅力的な話と思ったのですが、すぐに返事をするのは躊躇しましたので、とりあえず税理士に相談するから待ってほしいと木津根支店長に告げたのでした。そして、念のため2番手債権者のオクラ信用金庫にも資金相談することにしました。
「お父ちゃん、佐紀にどう言ったらええのん。」と、体の丸い花子さんがいつもの大きな声で聞きます。長女の佐紀さんは昨年嫁いだのですが、とてもしっかり者です。
「ぜっ、ぜったい言うたらあかん。反対しよるのに決まっとる。」と、川西達郎は力を込めすぎて、回していたろくろの壺の口を潰してしまいました。
「わたしずっと思ってたけど、佐紀が跡継いでくれてもええんちゃう。」と、花子さん。
「何をバカな事を。第一、夫の一八くんは東京で会社員しているやないか。辞めさすのか。そんな、得手勝手な。」と、言いつつ、本当は佐紀が男だったらと何度思ったことかしれません。
「だから二人でやってもらうねん。」
「切のうなるから、止めてくれ。佐紀には全部終わってから言おう。絶対それまでしゃべったらあかんぞ。」
仕事が終わり、二人だけの夕食にも慣れたはずでしたが、佐紀と俊夫と一緒に食卓を囲んでいた頃を思い出し、いっそう寂しさを感じるのでした。あと何日ここに住んでおれるだろうと、こんな事になるとは夢にも思わなかった二人でした。
解説
株式の評価
国税庁長官から全国の国税局長宛へ、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の価格に関する基本的な取り扱いを示した「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日、最終改正令和6年5月22日)によりますと、財産評価の原則は「時価」評価とされています。
そして株式及び株式に関する権利の価額は、それらの銘柄の異なるごとに、次に掲げる区分に従い、その1株又は1個ごとに評価するとされています。
この区分は、上場株式、気配相場等のある株式(登録銘柄、店頭管理銘柄、公開途上にある株式など)、取引相場のない株式、株式の割当を受ける権利等に分類されています。上場株式と気配相場等のある株式については、取引相場等で時価評価しやすいのです。
上場株式の評価
上場株式の評価では、課税時期の最終価格と、課税時期の属する月とその前月、その前々月のそれぞれの毎日の最終価格の月平均額、の4つの値の中で最も低い価額で評価するのが原則です。
気配相場等のある株式の評価
(1) 登録銘柄及び店頭管理銘柄
課税時期の取引価格と、課税時期の属する月以前3か月間の毎日の取引価格の各月ごとの平均額、の4つの値の中で最も低い価額で評価するのが原則です。
(2)公開途上にある株式
その株式の公開価格によって評価します。 上場時の理論的な価格=EPS(一株当りの利益)×PER(株価収益率)で求めますが、実際の価格はブックビルディング方式(需要積み上げ方式)か入札方式で決まります。
取引相場のない株式の評価
大会社、中会社、小会社と会社規模によって評価方法が異なります。大会社は従業員が70人以上か総資産価額15億円以上か取引金額15億円以上か(業種により異なります)が該当する会社です。それ以下は中会社か子会社となります。
大会社の株式の価額は、類似業種比準価額によって評価するのが原則です。中会社の株式の価額は類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額に一定の割合を掛けて計算した価額によって評価するのが原則です。小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額によって評価するのが原則です。
自社株の評価
事業承継において、中小企業のオーナーの持株のほとんどは、取引相場のない株式です。そのため非流動的で換金性に乏しく、評価も難しくなります。この評価方式には、原則的評価方式と特例的評価方式があります。原則的評価方式はさらに、類似業種比準方式と純資産価額方式並びにその併用方式に分類されます。特例的評価方式には、配当還元方式があります。
おおまかな分類を説明します。あくまで原則なので、例外はあります。
まず、自社株の取得者が同族株主等でしたら、原則的評価方式を適用します。経営支配権のない同族株主等以外の者でしたら、特例的評価方式の配当還元方式を適用します。
次に、同族株主等で、自社が特定会社(土地保有特定会社、株式保有特定会社)と判定された場合は、原則的評価方式のうち、純資産価額方式を適用します。
自社株の取得者が同族株主等であり、特定会社にも該当しなければ、原則的評価方式を会社の規模により分類して適用します。大会社(業種関係なく従業員100人以上)ならば、原則として類似業種比準方式を適用します。中会社ならば、原則として併用様式を適用します。小会社ならば、原則として純資産価額方式を適用します。中会社と小会社の分類は、従業員数、純資産価額、取引金額により決まります。さらに中会社は大、中、小に分類されて併用方式の比率が異なります。







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