32. テーマパークへのアクセス
まえがき
坂元八造、金田俊哉、深田金司の三人は新設テーマパークへのアクセス方法を江川繁と話し合います。
ストーリー

「宝塚すみれゴルフ倶楽部」はJR宝塚駅の北方にあります。国道176号線で福知山線の次駅、生瀬駅へ向かう途中で右折し、中国自動車道の下をくぐって、大峰山へ向かう登り坂からその進入路を設けています。
宝塚すみれゴルフ倶楽部は周囲を他の複数のゴルフ場に取り囲まれ、コース形状や難易度などで他と比べて見劣りしており、特にバブル崩壊後は営業赤字の累積が続きました。さらにリーマンショックがあってからは、会員の退会に伴う預託金返還ができずに、預託期間延長を主張して会員と訴訟問題も多く抱え、その処理を弁護士事務所に一任している状況です。そしてその弁護士事務所から本ゴルフ場の売却情報を入手した、というのが深田金司の設定です。
この地域は自衛隊・長尾山演習場や採石場も点在し、岩石層の固い地盤ですから建造物には適しています。また、車で宝塚駅より11分の距離なので、車では近距離と言って良いでしょう。しかし、徒歩ですと1時間以上かかるので、徒歩圏とはいえません。
「問題は、宝塚駅から現地までのルートですね。」と、都市再開発コンサルタントの江川繁が、地図を宝塚駅から指でなぞって説明します。
「現状、このあたりに来られるのは、住民以外はゴルフ場利用者に限られるのですが、そのほとんどは自家用車で来場されています。」と、深田、坂元、金田の顔を順番に見て、話を進めます
「確かに阪急バスの路線はあるのですが、その運行は彼岸時期のみなのです。」
「それでは全く役に立たない、というのはわかっとります。」と、不動産業者の深田金司が江川繁の目をじっと見て答えます。
「テーマパーク開園後の来場予定者数を元に阪急バスに定時運行してもらう働きかけもしますが、独自のシャトルバスの配備も検討しています。」と、事前に打ち合わせしていたことを、外資系有名ホテルチェーン・株式会社オーバーヘッドホテルズジャパン代表取締役の役を演じている坂元八造がそれらしく付け加えます。
「それに、先ほど敷地のうち60ha分については駐車場とメガソーラーシステムを設置すると申しましたが、観光バスの駐車エリアも十分確保します。また、一部は屋根付き駐車場として、その屋上にソーラーを設置することで、自家用車の十分な収容台数を確保する計画を立てております。」と、深田金司。
江川繁は右手で自分のあごを擦って何か考えている様子でした。しばらく会議室の、深田達三人の後ろの壁の右上あたりに視線を置いたままでしたが、視線を戻すと次のように話し始めました。
「それについては、私からアクセス方法の提案をできるかもしれません。」と、江川繁は途中まで言って、言葉を濁します。
「そこで何ですが、江川さん、私どもの計画はまだ机上のものですし、テーマパークについては、アメリカのセブン・フラッグスとライセンス契約も結ばないといけないので、できるだけ本事業の内容の秘密は厳守していただきたいところですが」と、坂元八造は身を乗り出し、江川繁を凝視して続けます。
「宝塚市で当方の計画に影響を及ぼすような開発計画などがもしあるようでしたら、基本設計もそれに対応した内容にしていきたいので、教えていただきたいのです。相乗効果が得られる計画ならば検討したいですから。いえ、もちろん、相手先の了解が得られればの話ですが。」と、坂元八造はだんだん調子が出てきてスラスラと話しました。さすが元国語教師、話に説得力があります。
「わかりました。その場合、相手方に当事業の計画概要、もちろん社名は伏せますが、を説明する必要があることは、ご承知いただけますか。」と、江川繁。
深田、坂元、金田の三人は頭を寄せ合い相談するフリをして、
「わかりました。結構です。但し、先に御社と守秘義務条項を入れたコンサルティング業務委託契約をさせていただきたい。」と、出資の日本ホラリス投資法人執行役員を演じる金田俊哉が答えました。
解説
会員制ゴルフ場の抱える問題
日本全国で約2,000のゴルフ場があります。利用者はバブル崩壊の時期は、現在でも諸説あるのですが、ここで平成3年(1991年)としてみますと、その後33年間の長期の景気低迷により、ゴルフ会員権の価格相場も超低額になっています。
バブル崩壊前は会員権価格は上昇するものであると信じられていました。これは個人のみならず、ゴルフ場経営者の中にはそれを前提に、実際にプレーできる数より多くの会員権を乱発して売却し、会員権価格と預託金を事業費用・運転資金に充当したり、他に流用する事業者もあったのです。
そのため、バブル崩壊後にトラブルが急増し、「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律」(平成4年5月20日、最終改正令和4年6月17日)が成立しました。
その第一条では、「この法律は、ゴルフ場等に係る会員契約の締結及びその履行を公正にし、並びに会員が受けることのある会員契約に係る損害の防止を図ることにより、会員の利益を保護し、あわせて会員契約に基づく役務の提供を適正かつ円滑にすることを目的とする。」と規定しています。
会員権があるのは、会員制ゴルフ場のみで、来場者が誰でもプレーできるパブリック制のゴルフ場にはございません。会員制ゴルフ場では、会員権を新規発行する際の販売収入の他に、文字通り退会まで預託金を預かります。当時は預託金額が会員権価格よりも低額が多かったので、会員はゴルフ場で退会手続きをして預託金の償還を得るよりは、会員権を市場で売却することの方が収益が上がったのです。
また、購入する側も会員権価格は上がり続けるものという意識でしたし、実際人気のゴルフ場で新規発行を手に入れるのは難しかったので、名義書換料が別途必要でも、市場で購入していたのです。
しかし、会員権価格が急激に下がると、預託金額の方が上回り、また市場で売却することも困難になります(買手がいない)ので、退会して預託金返還を請求することになりました。ゴルフ場経営者は、預託金を事業に投入してしまっており、預託金を返還できないので、預託金の期間を延長して、償還に応じず、会員とトラブルになったのです。
平成11年10月8日最高裁判所はゴルフ場がゴルフ会員権の預託金の期限延長決議したことを無効と判断しました。しかし、個々の会員がゴルフ場に期限延長の合意書を提出していた場合は延長が認められますので、預託金の返還を求めてもすぐに返還を受けられませんので注意が必要です。その間にゴルフ場が破産すれば全く返還を受けられないことも考えられます。
今後、若年層が少なくなる中で、約2,000のゴルフ場の経営は益々厳しい状況に置かれていくことが予想されます。経営方法の抜本的改革か、事業の転換か選択が必要でしょう。
近年ゴルフ場跡地にメガソーラー施設の建設が相次いでいます。外国資本の流入、電力会社の買取価格の低減、太陽電池の火災事故等維持管理の問題、環境破壊の問題も噴出しており今後の課題といえます。








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