34. 国土防衛会議

2024年8月31日

まえがき

 さかき理事長は完成した地下避難路を説明します。

ストーリー

半蔵濠

 「宮内庁の谷山でございます。各当主の皆様、この度は立派な避難路及び警備設備を設置していただき、誠にありがとうございます。」と、二重席の外側の席で起立した宮内庁長官が深くおじぎをしました。とても恐縮した様子です。

 進行役のさかき理事長は話を継いで、自席の後部にある 300インチのスクリーンに映し出された避難路の断面図を、右手に持つレーザーポインターで指し示しながら、説明します。

地下避難路

 「完成しました地下避難路は、当財団ビルの地下 3階駐車場より約 200m水平に東進し、半蔵濠を過ぎて上り約 10度の勾配となり、御所ごしょそばの緊急避難口に接続しております。全長約 400m、双方向通行の車線及び徒歩通路で幅員約 12m、最頂部高さ 9mに及びます。」と避難路について詳細に話し始めました。

 「皇居内の御料車ごりょうしゃと、当ビルからの救助車両の双方向通行を可能とし、御所ごしょ側の出入口には転車台ターンテーブルも設置し、避難時間の短縮に努めております。当ビル内の駐車場には、防弾性能を高めた特装車のトヨタ・センチュリーロイヤルを 4台待機させ、また警視庁麹町署の地下派出所を設けてパトカーと白バイを待機させており、緊急時には皇宮警察と協力し、天皇及び皇族の避難誘導と護衛を致します。」

 「また、本財団ビル地下 3階部分には、 30日分の食料備蓄をした居住スペースを設け、核避難シェルターとしての機能も備えております。」

 「なお、皇居内には、警備カメラに加え、不法侵入者対策としてレーザーセンサー設備が備えてありますが、近年のドローン対策のために、約 150m先まで届くミリ波レーダー設備も各所に配置致しました。」と、説明を終えてさかき理事長は自席に置かれたピッチャーから水をコップに注いで、グイッと飲みました。

 「では、川下国家公安委員長には、本年9月にラオスで開催された第14回ASEAN+3(日本、中国、韓国)国境を越える犯罪に関する閣僚会議(AMMTC+3)及び第9回AMMTC+JAPANの議事の中で、特に報告をされたい事案を説明いただきたい。」と、さかき理事長は前列右側の席に座る国家公安委員長の川下国務大臣を促しました。

 川下国務大臣は起立して、一堂に向かい丁寧に頭を下げて話し出します。

 「国家公安委員長に就任いたしました川下でございます。皆様方の国家への寄与、感謝申し上げます。国際閣僚会議における一般的な議事については、共同表明がされておりますので省略させていただきます。この場では、会議の中で取り上げられた、新たな国際犯罪組織について説明させていただきます。」

 「鋼の20倍の強度と銅の10倍の熱伝導性を持つ、日本で開発されたカーボンナノチューブ(CNT)を各国が競って研究しておりますことはご存知のことと思います。日本においても、産業技術総合研究所ナノカーボンデバイス研究センターで産業化の研究を進めております。将来はCNT回線での光通信や超音波通信システム、軌道エレベーターとしても期待されております。」

 「CNTは兵器や兵器の電子部品に利用の可能性があるため、輸出規制をとっている国も多いのですが、規制のない国より大量に購入している、イギリス領ケイマン諸島に本社を置く多国籍企業がございます。事業内容にCNT通信回線も掲げているのですが、これまでの実績は不明です。」

 「資金源も不明ですが、テロ国家や中東からのオイルマネーの流入とそのマネーロンダリングをしている疑いがありインターポール(国際刑事警察機構ICPO)も注視しております。ASEAN各国にその多国籍企業の現地法人が設立されたと報告がございました。このたびその多国籍企業の日本法人が設立されましたので、その活動を監視しているところでございます。」

 「また、CNTは製造法によっては、アスベストに似た発癌性や、毒性を生じさせることがあり、毒物兵器に使われる危険性もあります。現在のところ目的は不明ですが、この日本法人が国内にて水源地を含む国土の買収を進めております。」

 川下国家公安委員長は多国籍犯罪企業による世界の恐ろしい状況を説明したのでした。

解説

国際輸出管理レジーム

 「外国為替及び外国貿易法」(昭和 24年 12月 1日、最終改正令和6年 4月1日)第 1条では、「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もって国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」としています。

 具体的には、日本の優れた機械や技術が、日本又は国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等の活動に利用する恐れのある者の手に渡ることを防止するために、輸出等の管理を行っています。これを「国際輸出管理レジーム」といいます。

 この規制には、リスト規制、キャッチオール規制、積替規制、仲介貿易取引規制があります。

リスト規制

 その名の通り、武器及び大量破壊兵器に用いられるおそれのある輸出貨物や技術が法令のリストに記載されている場合は、どこの国への輸出でも経済産業大臣の許可が必要という規制です。

キャッチオール規制

 リストに記載されていない貨物や技術であっても、大量破壊兵器等の開発、製造、貯蔵、使用に用いられる、又は通常兵器の開発、製造、使用に用いられる恐れを輸出者が知った場合、又は経済産業大臣から許可申請すべき通知を受けた場合には、許可が必要という規制です。現在、大量破壊兵器キャッチオール規制と通常兵器キャッチオール規制が実施されています。この規制はグループAの国への輸出には規制されません。

 グループAとは以前はホワイト国と言われていましたが、輸出令別表第3の地域であり、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国の27カ国です。

積替規制

 仮に陸揚げした貨物について、武器に該当する場合や、その他の貨物でも、大量破壊兵器の開発等に用いられる通知があった場合、又は経済産業大臣から許可申請が必要との通知を受けた場合には、事前に経済産業大臣の許可が必要という規制です。この規制もグループAへの輸出には規制されません。

仲介貿易取引規制

 外国相互間の貨物の移動を伴う売買、貸借、贈与について、事前に経済産業大臣の許可が必要になる場合があるという規制です。この規制もグループA国間では規制されません。

カーボンナノチューブ(CNT)

 CNTカーボンナノチューブは日本で発見され、炭素原子だけで構成されていることはダイヤモンドと同じです。直径は 0.4~ 50nm(ナノメートル、 10億分の 1メートル)の一次元性のナノ炭素材料です。グラファイト層が 1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ、複層のものを多層カーボンナノチューブといいます。

 その特性は、密度がアルミニウムの半分程度と非常に軽いですが、強度は鋼の約20倍あり、銅の1000倍以上という高い電流密度耐性があり、さらに銅よりも高い熱伝導性を備えています。

 半導体や、宇宙ステーションと地球を結ぶ軌道エレベーターへの使用が考えられている素材ですので輸出規制がかかると考えられます。

参照:「国立研究開発法人産業技術総合研究所ナノカーボンデバイス研究センター」サイト