35. 国土保全

2024年8月25日

まえがき

 多国籍犯罪企業が日本に進出した目的はカーボンナノチューブ(CNT)と国土だった。

ストーリー

摩周湖

 国家公安委員長川下国務大臣の説明は続きます。

 「ケイマン諸島はジャマイカの西にある西インド諸島の一つでして、イギリス領の人口6万人弱の、海水浴客観光地である小さな島々でございます。タックスヘイブン(租税回避地)で有名でして、各国より資金と企業が集まっておりますが、ほとんどがペーパーカンパニーです。」

 「したがって、この多国籍企業も本社の籍を置いているだけです。現在分かっておりますのは、シンガポール、タイ、香港等のアジア圏、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリア等に現地法人を設立しており、中国系企業と名乗っているらしいのですが、実体は不明でございます。」

 一気に述べて、川下国務大臣はさかき理事長に小さく頭を下げて席につき、フーッと大きく息をしました。宮内庁長官も国家公安委員長も、この会議の顔ぶれの前では、国会招致で発言するより緊張しています。

 さかき理事長がカーボンナノチューブ(CNT)について解説を付け加えます。

 「なお、カーボンナノチューブ(CNT)については、2004年に産業技術総合研究所が「スーパーグロース法」による単層CNTの画期的な合成技術を開発したことを皮切りに、レアメタルである「インジウム」を含まない太陽光電池の開発も進んでおります。」

 「また、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の電極にCNTが用いられることなど、日本が世界の最先端におり、この多国籍企業の日本進出にはこの技術も目的ではないかと考えられる。」

 さかき理事長は次に国土交通大臣を指名しました。

 国土交通大臣岩戸は、隣の次官より資料を渡されて、左手に持って立ち上がりましたが、その手は微かに震えています。

 「国土交通省の岩戸でございます。理事会の皆様方のご協力厚く御礼申し上げます。さて、国土交通省では、「国土のグランドデザイン2050」を公表いたしております。これは対流促進型国土の形成をめざし、2050年を見据えた国土づくりの理念や考え方を示したものでございます。」

 「それを踏まえて令和5年7月「第三次国土形成計画(全国計画)」の変更を閣議決定し、今後10年間の国土づくりの方向性を定めております。」

 岩戸大臣がそこまで話している途中で、前列の列席者から、

 「円安で外国資本に日本の土地建物が買い占められ、日本人が欲しくても買えなくなるとマスコミが騒いでおるぞ。」との大きな声。

 「万屋よろずや理事、発言は挙手して指名を受けてからにして下さい。」と、さかき理事長が注意します。

 「手を挙げたぞ。もう良いか。」と、万屋よろずや理事がさかき理事長を睨んで言います。

 「はい、万屋よろずや理事。」と、さかき理事長が指名します。

 「我が国の約2,500兆円の不動産ストックに海外投資家による投資を進めるなんて報道発表したのがまずかったと言っておるだけじゃ。そういうことが後々まで尾を引き、円安が進み日本が買い占められると政権の信頼度にまで響いておる。」

 憤懣ふんまんやるかたない様子の万屋理事です。全国八百万やおよろずの神々が、外国資本の国土に住めるものか、との思いがあるのでしょうか。

 「その点はどうですか。」と、さかき理事長は岩戸大臣に聞きます。

 岩戸は、次官がすばやく用意した資料に慌てて目を通します。

 「それは、平成25年8月2日に報道発表致しました、「不動産市場における国際展開戦略について」のことを指しておられると思います。これはまず、不動産市場の海外におけるビジネス展開で、海外企業等との連携を強化し、相手国の支援ニーズを掘り起こして日本の不動産法制度等の発信をすることで、ビジネスの拡大を目的としておりました。」

 「そして、これが誤解されたところでございますが、海外からの投資を拡大し、都市機能の更新や国際競争力の強化につなげるという観点で、人材と資金が日本に集積する環境を構築することが目的でした。」

 「もちろん、水源地や安全保障の観点からの配慮は必要と考えており、国土のグランドデザイン2050や国土形成計画・国土利用計画に反映させております。」

 「さらに、重要土地等調査法が令和4年9月20日に全面施行され、重要施設周辺及び国境離島等の取引を届出制にするなど規制を加えております。」と、岩戸大臣は冷や汗を出して返答するのでした。

解説

国土のグランドデザイン2050

 「国土のグランドデザイン2050」は、急速に進む人口減少や巨大災害の切迫等、国土形成計画(平成20(2008)年閣議決定)策定後の国土を巡る大きな状況の変化や危機感を共有しつつ、2050年を見据えた、国土づくりの理念や考え方を示すものとして、平成26年7月4日に公表されました。

 キーワードは、「コンパクト+ネットワーク」であり、各種サービスを集約化(コンパクト化)した小規模拠点を作り、ネットワークで結んで、「新しい集積」を形成して国全体の「生産性」を高める国土構造を目指すとしています。そして、実物空間と知識・情報空間が融合した「対流促進型国土」の形成を目指すべき国土の姿としています。抽象的ですね。

 そして、平成27年からの10年間を「日本の命運を決する10年」とし、2050年の長期を見通しつつ、様々な資源、技術、知恵を総動員しながらこれからの10年間における国土形成の取組を計画的、効率的に実施するために、政府において長期的、総合的なビジョンを明確化する必要があるとし、今後概ね10年間における国土形成に関する基本的な方針、目標及び全国的な見地から必要である基本的な施策を明らかにすることを目的として、新たな国土形成計画を策定しました。

 海外からの投資に関しては、国土形成計画の中で、「国内外の企業から国内への投資を促進するため、世界トップクラスの事業環境を整備し国際的な立地競争力を高める。」としています。

 令和5年7月には「第三次国土形成計画(全国)」の変更が閣議決定されています。

参照:「国土形成計画(全国計画)概要」国土交通省サイト

重要土地等調査法

 大正十四年(1925年)成立の「外国人土地法」では次のような条項があります。

 「国防上必要なる地区に於いては勅令を以て外国人又は外国法人の土地に関する権利の取得につき禁止を為し、又は条件若しくは制限を付することを得る。前項の地区は勅令を以てこれを指定す。」(第四条)

 第二次世界大戦後、「外国人土地法」に基づく規制がされたことはありませんでした。

 逆に、平成25年8月2日に国土交通省が報道発表しました「不動産市場における国際展開戦略について」では、外国資本による日本の約2,500兆円の不動産ストックへの投資を促していると捉えられる内容でした。

 円安が進み、超高額のタワーマンションや自衛隊基地近くの土地、北海道の山林や水源への中国資本の投資などの問題が発生しました。

 日本人や日本資本は中国の土地を買えず、使用権を得るのにも色々な条件が付くのに、日本の国土はどんどん買われてしまうという不公平感と危機感が生じたのです。

 中国以外にも外国人や外国資本に土地取得を禁じている国があります。

 そうして令和4年9月20日「重要土地等調査法」の施行に至りました。

 「この法律は、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため、基本方針の策定、注視区域及び特別注視区域の指定、注視区域内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注視区域内にある土地等に係る契約の届出等の措置について定め、もって国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする。」(第一条)

 重要施設(防衛関係施設等)及び国境離島等の機能を阻害する土地等の利用防止を目的としています。

 注視区域の指定、及び注視区域の中で他に機能の代替が困難なものを特別注視区域と指定します。

 特別注視区域内の200㎡以上の土地等の所有権移転等には事前に内閣総理大臣への届出が必要とされます。

参照:「不動産市場における国際展開戦略について」国土交通省サイト

「重要土地等調査法の概要」内閣府サイト