41. M&A初面談

2024年8月25日

まえがき

 川西達郎と花子はM&A事業買受けの相手と初面談をします。

ストーリー

山田錦

 皇室献上陶器の有馬焼窯元三代目清和 川西達郎と奥さんの花子さんは、フラワーロードの歩道を南に歩き、神戸市庁舎と東遊園地の間の道に入ってしばらく行ってようやく神戸旧居留地内にあるしぶがき銀行本店のレトロ風な4階建建物に到着しました。

 しぶがき銀行本店営業部の正面玄関のガラスドアが自動で両開きし、二人は1階ロビー奥のエレベーターに乗って、2階の住宅ローン・資産運用相談センターに上がりました。

 二人ともコートを脱いで左手に掛け、女性の案内係に連れられて藤原台支店 木津根きつね支店長が待つ応接室に着いたのは、約束の時間5分前のことでした。

 「ああ、川西さん、お待ちしておりましたよ。」と、応接室のサイドスツールに座っていた木津根きつね支店長は立ち上がり、ホッとした顔をしました。木津根きつね支店長は二人に奥側の黒革張りの2人掛ソファーを勧めました。

 そうして、ついに川西達郎と花子さんは、譲渡先となる相手と対峙したのです。

 兵庫県篠山市立の山中の中学校で、工作の授業での手先の器用さが際立っていた達郎に、定年間際の担任教諭は皇室献上陶器の有馬焼窯元清和への就職を勧めました。

 地元の丹波焼窯元に卒業見込みの生徒の就職をお願いしたところ、今は手が足りているのでと、清和を紹介していただいたのです。

 貧しい家庭に育った達郎は、本当は高校進学がしたかったのですが親に遠慮して言えず、進路相談で就職を希望していたので、両親ともとても喜んだのでした。

 しかし就職と言っても、実際は弟子入りであり、師匠宅に住み込みで朝から晩までコマネズミのように働きました。

 師匠の二代目清和はとても厳しい人で、陶芸の技術以前に人として一人前にならないといけないと、中学卒業したばかりの何も知らない達郎にまず礼儀を厳しくしつけたのです。

 「ええか、達郎。この日本一の酒米の山田錦やまだにしきを見てみい。稲穂が実るほど、こうべを垂れるやろ。人もそうでないといかん。偉くなるほど、謙虚にならんといかんのや。」

 「若いうちは偉そうにすれば偉く見えると勘違いするが、年をとってくると、偉い人で頭が低いことがどれだけ人間のできた人かがわかるのや。」との師匠の言葉が、今も達郎の心の芯となっているのです。

 達郎の働きの良さは師匠の気に入るところとなり、愛娘の花子さんの婿となり、窯元を継いで三代目清和となったのです。

 それ故、お客様は上座かみざということが染み付いている川西達郎には、譲渡先の相手が上座かみざを空けて待っていたということにまず驚かされたとともに尊重されていると感じたのでした。

 花子さんも父親に礼儀を厳しくしつけられていたので、ホッとしたのと同時にうれしく感じました。

 本店営業部に着く前に二人で想像していた、金ぴかのスーツを着た金貸しの悪者に札束で頬を叩かれるようなイメージは吹き飛んだのでした。

 20代の純朴そうな青年といかにもビジネスマンらしいキチッとした感じの男性が立ち上がり、センターテーブルを挟んで川西達郎と花子さんに相対しました。

 純朴そうな青年は、いかにもぎこちなさそうに「よろしくお願いします。」と言って、頭を下げました。スーツはいかにも借りてきた衣装のように着慣れていない様子です。

 しかし、川西達郎にはこの青年にどこかで会ったことがあるような気がしてなりません。

 一方、ビジネスマンは、「この度、お取引させていただきます、西川アセットコンサルタントの代表 西川でございます。よろしくお願いいたします。」と、川西達郎の目をじっと見て名刺を差し出した後、頭を深く下げました。

 名刺には、「株式会社西川アセットコンサルタント 代表取締役 西川 しん」と記載されています。

 「川西達郎です。こちらは妻の花子です。」と、二人は頭を下げました。

 四人ともソファに座ると、川西達郎は先ず疑問に思っていたことを青年に向かって問いかけます。

 「あんた、どっかで会ったことないか。」

解説

M&A市場

 M&A(企業買収)はどのような状況でされるのでしょう。

1.グループ会社間で行われる。

 この場合は、仲介者やアドバイザーを立てずに直接取引されるでしょう。

2.同業他社との間で行われる。

 会社全体の譲渡はもちろん、不採算事業を分割して、成功している同業他社に譲渡する場合も考えられます。

 もともとの取引相手企業が買い受ける場合もあります。仲介者あるいは双方がアドバイザーに依頼して取引します。

 譲渡側には通常、「競業避止義務(同業種の事業を行うことができない義務)」が課されます。

3.事業に新規参入する企業との間で行われる。

 免許が必要な業種での需要が考えられます。

M&A支援

 このようなM&Aを行う市場には、金融機関や民間企業で相手を紹介しているものもありますが、ここでは国の中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構の取組を紹介いたしましょう。

・事業承継・引継ぎ支援センター

 全国47都道府県で、事業承継全般に関する相談対応や事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援などを原則無料で実施しています。

・事業承継・引継ぎ補助金

 M&A時の専門家活用費用や事業承継・引継ぎ後の設備投資や販路開拓、設備廃棄費用等を支援します。

・M&A支援機関登録制度

 事業承継・引継ぎ補助金で仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用が補助対象となる、登録支援機関を検索できます。

参照:「事業承継」中小企業庁サイト

参照:「事業承継・事業再生をしたい」独立行政法人中小企業基盤整備機構サイト