45. 有馬地区モール計画

2024年8月25日

まえがき

 川西達郎は西川しんから有馬地区モール計画を聞き、基本合意書を結ぶことを決断します。

ストーリー

有馬温泉の街並み

 「私どもでは、有馬温泉の東側の地域に、会員制高級ショッピングモールを建設する計画でいます。」

 「保養地の静かな風情を損なわないように、有馬地区景観形成市民協定に沿った低層かつ歴史的要素を取り入れた建築物で、屋根・外壁等も自然素材を基調にした色彩を抑えたものにして点在させます。」

 「有馬焼陶器はモール内の各所に配置し、高級感のある和のイメージを持たせつつ館内の全ての陶器を販売商品とします。」

 「また、有馬温泉の旅館・ホテルとそのレストランの食器はできるだけ有馬焼にしてもらい、当モール会員の食事や宿泊には有馬温泉の既存の旅館・ホテルをお勧めすることで相乗効果を図ります。」

 西川しんは計画段階なので詳細は申し上げられないのですがと、かいつまんで説明しました。

 「そうですか。有馬焼と有馬温泉の両方が発展することを望みます。」と、川西達郎と奥さんの花子さんは安心した様子です。

 「あとは、兵庫県内では5年間は窯業ようぎょうをご遠慮下さい。難しい言葉ですが、「競業避止義務きょうぎょうひしぎむ」と言います。」と述べて、西川は木津根きつね支店長に目をやり、進行を促せます。

 木津根きつね支店長はクロージングにかかります。

 「川西さん、ご納得いただけましたら、本日はこのまま基本合意書を締結いたします。内容は本日の合意内容と、買受人側の買収監査及び山林現地調査の日時、そして最終契約の締結期限等となります。」

 「下書きは当行で作成し、弁護士のリーガルチェック(法的に問題や危険はないかの点検)も済ませております。また、買受人の西川様にもすでにご確認いただいておりますので、ご安心下さい。」

 「また、本合意後の買受人側の買収監査ですが、弁護士事務所及び会計事務所が工房にお伺いして1~2週間かけて行います。」

 「なお、工房建物と山林については不動産鑑定士等の調査も入ります。」

 「もちろん、従業員の方に配慮して実施します。その結果、最終買取価格が決定します。よろしいですか。」と言って、木津根きつね支店長は川西達郎に念押しします。

 川西達郎は奥さんの花子さんに良いかと確認してから、「よろしくお願いします。」と、答えました。

 川西達郎は、西川がこの応接室で上座を空けて待っていたこと、有馬焼と自分を事前に調べて最善と思われる後継者を用意してくれていたこと、面談での態度やこちらがよく理解できるような話し方をしていたことなどに感じ入りました。

 そしてこの不動産コンサルタント西川しんを誠実な男だとすっかり信用し、また信頼したのでした。

 そして、札束で頬を張るような金ぴかの金貸しのような男だったら1円もまけてやるかと思っていたのですが、西川という男だったら残った従業員にひどいこともしないだろう、それなら金額については譲歩しても花子も許してくれると思ったのでした。

 そして、この日のうちに基本合意書は締結され、最終契約書の締結まで3ヶ月間の期限が切られたのでした。

解説

M&A(企業買収)基本合意書

 「基本合意書」の締結は必須のものではありません。

 しかしながら、買手企業が調査等の手間をかけていざ最終契約となるところを、売手が翻意して他企業に売却を決めた場合は、買収の目的を達することができないだけでなく、それまでの時間と手間と費用が損害となります。

 したがって、売手を心理的に拘束するためにも、できるだけ基本合意書の締結はするべきです。

 基本合意書は、株式譲渡の場合、事業譲渡の場合、合併の場合等に合わせて内容を変えるのですが、ここでは法人代表者(個人)が会社の株式譲渡をする場合の合意書記載事項について説明いたしましょう。

1.取引内容

 取引の内容、譲渡株数、譲渡代金(幅を持たせることもあり)、支払方法、引継方法など

2.役員・従業員の処遇

 退職の場合の退職員の金額、継続雇用の場合の条件など

3.費用の負担

 弁護士、会計士等の費用の売手・買手の分担

4.買収監査

 DD(デューデリジェンス)の実施時期、範囲、担当者(弁護士、会計士等)など

5.最終契約

 最終契約予定日、クロージング予定日など

6.公表

 公表が必要な場合の時期、方法など

7.優先交渉権

 買手の優先交渉権、誠実交渉義務など

8.合意解除

 偶発債務の発生等で合意を解除した場合の損害賠償額など

9.秘密保持義務

 秘密保持義務と開示条件など

10.拘束力

 合意書の法的拘束力の内容など

11.協議事項

 その他合意書に記載ない事項の協議など

12.準拠法

 準拠法と管轄裁判所など

 これらの内容を記載した合意書に売手(個人)及び売却対象会社、買手が記名・捺印します。