46. 独立国家宣言

2024年8月25日

まえがき

 坂本八造と金田俊哉は特別に選ばれて入社したことを知ります。

ストーリー

新幹線・電光掲示板

 有馬焼窯元清和の買収は基本合意書の締結に至りましたが、不動産コンサルタント西川しんは清和以外の有馬再開発での土地買収も、慎重かつ着々と進めていました。

 神戸再開発ファーム合同会社に依頼して行政との交渉を進め、かつ有馬観光協会の会員への説明会を何度も開催したのです。

 開業する会員制高級ショッピングモールでは、阪急電鉄宝塚線「宝塚駅」から豪華仕立てのシャトルバスを無料ピストン運行する予定ですが、そのルートに温泉内の有馬観光協会会員旅館・ホテルへの送迎も取り入れる案を出しました。

 これまで各旅館・ホテルは個別に送迎バスを走らせていましたが、この経費が削減できしかもモール来場者の宿泊や食事も見込めるとあって、西川の提案は受け入れられ、また有馬焼の食器導入の協力も得られたのです。

 ただ、西川はもう一つ何かインパクトある集客手段を欲していました。当初プランでも収支は十分見込めるのですが、もっと爆発的な集客はできないものかと考えていたのです。

 そこへ、神戸再開発ファーム代表の江川から宝塚市のゴルフ場跡地に絶叫マシンを集めたテーマパーク開発計画があることを聴き、「それだ!」と飛びついたのです。

 かくして、神戸再開発ファームの紹介により、西川はテーマパーク開発事業者と面談することになったのです。

 国土防衛会議の終了後、公益財団法人「みやこ財団」の最上階である5階の理事長室で、ファミリーオフィス銀座の所員全員がさかき理事長と面会しました。

 そこで、みやこ財団の由来は、第二次世界大戦後の混乱期に日本の将来を憂える有志によってある資金を元に活動を開始したこと、国土防衛のために国家に協力していることをさかき理事長から説明されました。

 「みやこ財団」及び各理事の資金管理・運用のために「ファミリーオフィス銀座」は設立され、海外から所長として伊勢信一郎が呼び戻され、栗原美雪、坂元八造、金田俊哉の3名はさかき理事長が有望な候補者から厳選して引き抜いたことを打ち明けられたのです。

 そして、伊勢信一郎から宝塚市ゴルフ場跡地のテーマパーク事業への投資を実行することも告げられ、坂元八造と金田俊哉は再び新幹線で新神戸に向かい、S友不動産相談役の深田理事と合流することになりました。

 「まだ、怒っているのか?」と、金田俊哉のふくれた横顔を見ながら、坂元八造が困った顔で言いました。

 「怒ってなんていませんよ。ただ、これって騙されたのと同じじゃないですか。」

 「坂元さんはどうなんですか。まだ先生を続けていられたかもしれないんですよ。」と、不満げな声で返します。

 「いやー、俺は妻の父親の紹介だったからというわけじゃないが、何か新しい人生を始められたようでワクワクしている。」

 「教師をやって数年経つと、後は毎年同じ繰り返しのようで、また、そのマンネリにも慣れきってたような気がする。だから俺にはちょうど良かったよ。」と、坂元はのぞみ普通車指定席の窓の外を見て自分の人生を振り返っていました。

 「それに、今は自分のことだけじゃなく、日本のためと思って仕事ができる。それが自分の生きている意味というか、価値というべきか分からないけれど。」

 確かにその思いは若い金田俊哉にもあります。これまで仕事のストレスに耐え切れなく感じていたのも、ただ自分のためだけに仕事をしていたからではないかと感じていたからです。

 「基本給をもっと上げてもらいたいですね。インセンティブは無制限とは言われましたけど。」

 そのとき、車両前方のドア上部の車内電光掲示板に、そのニュースがテロップで流れました。

 「中国西部の新疆しんきょうウイグル自治区カシュガル地区周辺地域を武装勢力が占拠し、独立国家を宣言しました。」

 「うわ、大変だ。」と、坂元はテロップを見て驚いています。その車両の他の乗客も騒がしくなりました。

 「坂元さん、中東を追われたイスラム過激派も流れ込んでいるみたいです。ネットニュースでも流れています。」と、金田。

 「戦争だよ、こりゃ。中国が認めるはずないよ。日本に飛び火しなければ良いけど。」

解説

パナマ文書

 2016年4月に『パナマ文書』の分析結果の公表が始まり、大騒動になりました。

 これは中米パナマのモサック・フォンセカ法律事務所が取り扱ってマネー・ロンダリングしている企業と個人の流出情報で、匿名情報源が南ドイツ新聞に同事務所の内部文書を渡したものです。

 パナマ文書には約 1,150 万件の文書が含まれており、1970 年代から 2016 年春までの期間をカバーしていました。

 南ドイツ新聞は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と協力してデータを分析開始しました。

 これにより、特に英国の海外領地であるタックスヘイブン(租税回避地)に本社を置く多国籍企業(実はペーパー・カンパニー)がいかにマネー・ロンダリングをし、税を逃れ、法を犯しているかが各国で問題となりました。

 また、世界中の大統領等指導者、著名人の本人もしくは家族親戚の名前も文書に記載されていました。

 しかし、令和6年7月パナマ司法府はパナマ文書に関連したマネー・ロンダリングで罪に問われていた28人の被告を無罪とし、新大統領ホセ・ラウール・ムリノはそれを歓迎しました。

 本作品ではイギリス領ケイマン諸島に本拠地を置く多国籍犯罪企業が日本の国土と水資源等を狙って暗躍しています。

BEPSプロジェクト

 OECD(経済協力開発機構)は、1961年にフランス、パリで設立された世界中の人々の経済や社会福祉の向上に向けた政策を推進するために活動を行っている国際機関ですが、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS(利益移転))に対処するため、平成24年より「BEPSプロジェクト」を立ち上げました。

(OECD東京センターサイト、国税庁サイトより)

 平成28年度税制改正で、OECDのBEPSプロジェクト行動計画13「多国籍企業の企業情報の文書化」に従い、日本においても共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告書の文書化制度が決められました。

1.国別報告書

 多国籍企業グループの定量的情報。外国子会社の国ごとの収入金額、税引前当期純利益、納付税額、従業員数等。

2.マスターファイル

 多国籍企業グループの定性的情報。グループの組織構造、事業概要、財務状況等。

3.ローカルファイル

 関係者間取引における独立企業間価格を算定するための詳細情報。

参照:「BEPSプロジェクト」国税庁サイト