58. 親子事業

まえがき

 伊勢信一郎は西川真についに会い、共同事業の提案をします。

ストーリー

握手

 株式会社西川アセットコンサルタント社長 西川しんは、一般社団法人日本名勝保護協会(JSSP)に代わる有馬地区会員制ショッピングモール事業への大口投資家を懸命に探していました。しかし、事業を継続的に運営することを重視すると、外資ファンド等は除外せざるを得ず、難航したのです。

 そして、とうとう宝塚市ゴルフ場跡地テーマパーク事業者側との二回目の合同出資交渉日を迎えたのです。

 六甲おろしの厳しい寒風が六甲大橋に吹きすさぶ中、六甲ライナーと併走する少し濃い目のイリジウムシルバーのSクラスAMGアーマーゲーは六甲アイランド内の「神戸再開発ファーム合同会社」に向かっていました。

 その後部座席で、西川は腕を組み目を閉じて事態解決の方法はないかと思案していました。考えつく手は全て尽くしきっていたのです。

 そして、六甲アイランド内の都市再開発コンサルタント事務所「神戸再開発ファーム合同会社」の会議室で、西川はザ・オーバーヘッドホテルズ日本法人 坂元社長、日本ホラリス投資法人 金田執行役員、不動産会社 深田社長と再び交渉の場についたのです。

 「では、『宝塚~有馬地区シャトルバス運行事業計画』の共同出資についての二回目の協議を行います。」と、神戸再開発ファーム合同会社代表 江川しげるが告げました。

 「前回、共同出資の前提条件として有馬地区会員制ショッピングモール事業に出資している匿名組合員に日本名勝保護協会(JSSP)が名を連ねているかどうかの確認を坂元社長から求められたわけですが、西川社長どうでしたでしょうか。」と、江川しげるは西川しんに問います。

 坂元、金田、深田が注視する中、西川しんは重い口を開きました。

 「有馬地区会員制ショッピングモール事業の匿名組合員には現在・・日本名勝保護協会はおりません。ただ、現在当事業は資金面で進行が休止しております。」

 「したがって、シャトルバス運行事業計画の共同出資についても、現段階では進めない状態でございます。しかし、必ず問題点は解消し、この共同出資についても前向きに検討していく所存ですので、しばらくの猶予をいただきたいのです。」と、西川は眉間にしわを寄せて苦し気に返答しました。

 西川の答えをじっと聞いて納得した表情の坂元八造は、深田理事をチラッと見て深田がうなずくのを確認しました。

 「西川社長、その件で当方から提案があります。それは私のボスからいたしましょう。」と、坂元八造はやさしく西川に告げました。

 そして、会議室のドアを開けて、伊勢信一郎が現れ、ついに西川しんと対面したのです。

 伊勢信一郎は、席から立ち上がった西川しんを、野心を持った典型的な「ニューマネー」だと感じました。苦労してよくここまで(富裕層まで)這い上がって来たとその努力とかけた年月を評価しました。

 伊勢は海外で数多くの富裕層と会ってきたのですが、元々の富裕層(オールドマネー)と新たな富裕層(ニューマネー)とは確実に見分けられました。悪く言えば、西川は「成り上がり」というわけですが、伊勢は西川の内面には実直なものがあり、信念を持って這い上がって来たことを見て取ったのです。

 西川しんは、会議室のドアを開けて入場してきた伊勢信一郎を、自分とは住む世界の違う上流な環境で育った男と感じました。175センチの自分より5センチは高い身長、がっしりとした体格、色白で彫りの深い顔立ち、ワックスできれいになでつけた黒髪、その立ち居振る舞いに全身から「上品かつ優雅」なオーラが出ていたのです。凄い男がいるものだ、かなわないと瞬時に悟ったのです。

 伊勢信一郎は坂元八造の隣の席に座りました。イスを引き、座る動きにも優雅なオーラが感じられます。そして、伊勢は西川の目をじっと見て口を開きました。西川には、とても澄んだ暖かい目に思えました。

 「初めまして。ファミリーオフィス銀座の代表を務めております伊勢信一郎です。あなたとお会いするのを楽しみにしておりました。何しろ、あなたは人を見る目の厳しい深田理事が認めた人ですからね。」と伊勢は語り出します。

 「ファミリーオフィス銀座は公益財団法人みやこ財団の資産運用管理を担っております。そして、こちらがみやこ財団の理事であり、S友不動産相談役の深田金司理事です。これまで、不動産会社の社長としか名乗っておりませんでしたね。」と、深田理事を改めて紹介しました。

 「騙していて悪かったな。これには理由があったんじゃ。」と、いつも渋面をした深田理事がめずらしく笑顔を見せました。

 「そして、私の部下の坂元八造と金田俊哉、二名はファミリーオフィス銀座の社員です。」と、伊勢信一郎は隣に座っている坂元社長と金田執行役員の正体も明かしました。

 「いったい、どういうことですか。」と、いつも冷静さを保つ努力をしている西川しんですが、動揺し思わず口に出して江川しげるに問いただしました。

 江川は困った顔で、自分もつい最近そのことを明かされたのだと述べました。

 伊勢信一郎は、「重要なことをお話しします」と、西川の注意を再び自分に向けさせました。

 「私達ファミリーオフィス銀座とみやこ財団は、政府と協力して国土と水源等の防衛をしています。多国籍犯罪企業WSSP が日本に設立した一般社団法人日本名勝保護協会(JSSP)が有馬温泉の周辺土地と六甲山系の水源を買収するのを阻止するために動いていたのです。」

 「失礼ですが、日本名勝保護協会(JSSP)の依頼を受けて動いていたあなたが、彼らの正体を知っていたかどうか試させていただきました。結果、あなたは「疑わしい取引」の報告を金融庁に提出されたことで、私達はあなたを「白」と判断したのです。」

 「宝塚すみれゴルフ倶楽部跡地のセブン・フラッグステーマパークとザ・オーバーヘッドホテルズのオフィシャルホテル事業は本当です。みやこ財団が出資をし、日本ホラリス投資法人が特別目的会社(SPC)として出資の器となります。そして、今回、あなたに提案があります。」と、伊勢は西川に告げました。

 「有馬地区会員制ショッピングモール事業は、日本名勝保護協会(JSSP)が六甲山系の山林と地下水源を得ることを目的とし、その隠れ蓑としてあなたに持ちかけた事業でした。しかし、現在、匿名組合員から日本名勝保護協会(JSSP)は撤退し、事業は資金難に陥っている状況ですね。」と、西川に問います。

 「その通りです。」と、認める西川。

 「そこで、日本ホラリス投資法人が親SPCとして、有馬地区会員制ショッピングモール事業の子SPCに匿名組合員として出資することを提案します。これにより、ショッピングモール事業の資金問題は解決します。また、シャトルバスの共同出資についてもこの親子SPCの共同出資とすれば良いのです。」

伊勢信一郎の提案するダブルSPCスキーム

 「なお、日本ホラリス投資法人のアセットマネージャー(AM)とファンドマネージャー(FM)はファミリーオフィス銀座が致します。そして宝塚市テーマパークの日常管理運営についてはプロパティマネージャー(PM)を株式会社西川アセットコンサルタントに依頼します。」

 「有馬地区ショッピングモール事業の子SPCのアセットマネージャー(AM)とプロパティマネージャー(PM)は従前の通り株式会社西川アセットコンサルタントが担当するのです。いかがですか。提案を受けられますか。」と、伊勢信一郎は西川しんの返答を促しました。

 「何と言ったら良いのか。断る理由はございません。しかし、特定事業者としての取引時確認はさせていただきます。」と、西川は降ってわいたような投資話がまだ信じられない気持ちです。

 しかし、これによりショッピングモール事業よりはるかに規模の大きいテーマパーク事業のプロパティマネージャー(PM)も務められることは西川にとって想像もできないうれしい提案で、本当に断る理由がないのです。

 伊勢信一郎は優雅に立ち上がり右手を差し出しました。そして西川しんもしっかりと立ち上がり、二人は強く握手を交わしたのです。

 そして、西川しんは総合商社宅安物産役員宅安漬雄たくあんつけおからザ・オーバーヘッドホテルズ日本法人社長である坂本八造にソーラーシステムの導入についての電話がかかることを伝えました。

 伊勢信一郎は日本名勝保護協会(JSSP)を追い詰めることを西川しんに協力依頼したのでした。

解説

ダブルSPCスキーム

 不動産ファンドの基本的な仕組みについては、「24. 不審な開発計画」にて解説しています。ここでは、それを発展させた親子のSPCのスキームについてお話しいたしましょう。

 不動産特定共同事業法の改正前は、実物不動産を取得できない親SPCが、投資する子ファンドで実物不動産を取得する手段として用いられるケースもありましたが、脱法手段として違法性が問題となりました。平成25年に改正後は親SPCが実物不動産を取得できるようになりました(条件があります)ので、その目的だけで子SPCを用いなくとも良くなりました。

 匿名組合員である投資家は、親SPCと匿名組合契約を締結して出資をいたします。親SPCはその集めた資金をファンドマネージャ(FM)に振り分けさせて子SPCに匿名組合員として出資するのです。親が子にお金を出してあげるという手法です。

 資金の器となる特別目的会社(SPC)は、不動産特定共同事業契約を締結して当該不動産特定共同事業契約に基づき営まれる不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を行う行為を専ら行うことを目的とする法人である「特例事業者」であることが必要です。SPCは他事業による損失等により倒産するリスクから隔離されています。

 事業参加者である匿名組合員は「特例投資家」に限定されています。プロ投資家というわけです。

 ファンドマネージャーは不動産取引に係る業務(第三号事業)と事業参加者を勧誘する業務(第四号事業)を兼務することができます。SPCの資金の運用管理を担当するわけです。